抄録
【症例】 55歳女性.41歳時心拍数50回/分程の徐脈を指摘.44歳時当科に入院し,洞不全症候群,拡張型心筋症と診断.心臓電気生理学的検査で右房が洞性不整脈,左房が粗動の心房解離を認めた.薬物治療を開始したが,症状が増悪するため46歳時VVIペースメーカー植込み.この時右房電位の一部消失とペーシングによる心房の反応消失がみられ,右房は部分心房停止および細動に移行していた.翌年ペーシング閾値が上昇し,心筋電極VVIペースメーカーに変更.その後,心不全による入退院を繰り返し55歳で永眠.
【剖検所見】 心重量375g.肉眼では両心房心室の拡大を認め,特に右房壁は紙様に菲薄化していた.組織学的に両心房とも線維化が著しく,特に右房はほぼ完全に膠原線維に置換され,分界稜・洞結節も膠原線維,脂肪織に置換され,一般心房筋細胞および洞結節細胞は消失していた.心房中隔も心房筋脱落が著しく,冠静脈洞周囲の脂肪浸潤,Bach-mann束相当部の線維化を認めた.また,房室結節周囲も線維化はみられたが,His束以下の刺激伝導系は保たれていた.
【考察】 心房解離はまれな不整脈であり,その病理学的検索は極めて少ない.剖検所見は心筋線維化が心室筋のみならず心房筋にも生じ,右房内の洞房結節・分界稜・Bachmann束,房室接合部周囲心房筋の線維化により,心房内および心房間伝導が障害され,心房解離および死亡時には心房停止を生じていたと考えられた.