心臓
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症例 弓部大動脈縮窄症に対する胸骨部分切開を用いた形成術の1治験例
松村 剛毅竹村 隆広萩野 生男河野 哲也長谷川 朗
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2002 年 34 巻 10 号 p. 805-809

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抄録

症例は12歳の男児.5歳時に心雑音を指摘され,大動脈弁閉鎖不全症(AR)と診断された.8歳時に,心臓カテーテル検査にて圧較差30mmHgの弓部大動脈縮窄症(mid-arch coarctation)と診断された.高血圧の出現を手術時期と考え,右上肢の非観血的血圧を指標にトレッドミル検査を行い,外来にて経過観察されていた.11歳時,高血圧と診断され,カテーテル検査にて狭窄部位に78mmHgの圧較差を認めたため,手術の方針となった.
手術は,小皮膚切開,左第3肋間へのL字型胸骨部分切開にて開胸した.超低体温,循環停止下,腕頭動脈からの選択的脳灌流により,弓部および左総頸動脈分岐部の狭窄部を切開,開放した.左総頸動脈分岐部は,二重にしたHemashield sheet(R)を,また弓部は自己心膜にHemashield sheet(R)を裏打ちしたものをパッチとして血管形成術を施行した.
術後経過は良好で,術後8日目に心臓カテーテル検査を行い,圧較差は31mmHg(平均圧では,術前27から4mmHg)に低下した.術後1年での心臓超音波検査において,弓部に2.86m/sの加速を認めたが,大動脈弁位では1.02m/sの加速しかなく,またカラードップラーにてARを認めなかった.このときの右上肢と下肢での非観血での血圧の較差は4mmHgであった.
弓部大動脈縮窄症は極めてまれな疾患であり,当症例はそれが診断される以前に後負荷増加によると考えられるARを併発した.トレッドミル検査による血圧の変化を指標に手術時期を決定した.まれな疾患,経過,手術適応の時期決定の点において興味深い症例と思われ報告した.

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