抄録
背景:大動脈弓部における潰瘍性・可動性プラークの存在は,脳梗塞発症の危険因子と考えられている.HMGCoA還元酵素阻害薬(スタチン)は,脳梗塞の再発予防に有効であるとの報告がある.われわれは大動脈弓部プラークのさまざまな組織性状やスタチンの非投与が脳梗塞の再発に及ぼす影響を調査した.方法:急性期(発症後6±1日)に経胸壁,経食道,頸動脈エコーを施行し,アテローム血栓性脳梗塞と診断された51例を対象とした.全例に対し,脳卒中学会のガイドラインに準じた適切な抗血栓薬やスタチンの経口投与を開始した.遠隔期における脳梗塞の再発の有無を,文書による聞き取りで調査した(平均観察期間840日).急性期の臨床所見と長期予後を詳細に比較検討した.結果:51例中15例(29%)に脳梗塞の再発または死亡を認めた.イベント発生群と非発生群における年齢,心内血栓,頸動脈プラークの合併頻度に差はなかった.イベント発生群は非発生群に比し,弓部における非石灰化プラークの合併頻度が高い傾向があり(100%vs78%,p=O.0865),スタチンの投与率は有意に低かった(7%vs36%,p=0.0411).非石灰化プラークを有する43例に限定して行った解析では,スタチン非投与群のイベント発生率は投与群に比し高い傾向を認めた( 44%vs 9%, p=0.0649) . 非石灰化プラークを有する症例における, 脳梗塞再発の子を,Cox比例ハザードモデルを用いて多変量解析したところ,スタチン非使用は独立した再発の危険因子であることが示された(オッズ比=20.965,95%Cl=1.143-384.512,P=0.0403).結語:大動脈弓部にみられる非石灰化プラークは脳塞栓再発の重要な危険因子であり,慢性期におけるスタチンの非投与は,非石灰化プラークを有する症例の再発率をさらに高める可能性が示唆された.