症例は81歳,女性.2004年2月胸痛を主訴に当院を救急受診.心電図はV2~6でST上昇を認め,緊急冠動脈造影を施行したが有意狭窄は認めなかった.左室造影では左室中部の無収縮,心基部と心尖部の過収縮を認めた.心筋逸脱酵素の上昇は認めず心電図変化,壁運動異常は約1週間で正常化した.2005年4月胸痛にて再度入院.心電図はV1~3でST上昇を認め,緊急冠動脈造影を施行したが有意狭窄は認めず,左室造影では前回と同様,左室中部の無収縮,心基部と心尖部の過収縮を認めた.エルゴメトリン負荷でスパスムは誘発されなかった.壁運動異常はいったん消失したが,2週間後には左室中部壁肥厚,左室内圧較差(50mmHg)を認め,4週間後には正常化した.
本例は臨床経過がたこつぼ心筋障害に類似しているものの,一過性の壁運動異常出現部位が左室中位レベルであり,たこつぼ心筋障害の亜型(“逆たこつぼ”心筋障害)と考えられた.再発例であり,また,急性期ではなく亜急性期に一過性の左室心筋壁肥厚および左室内圧較差を生じるなど,稀な症例であると思われた.