植物環境工学
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論文
水分量の異なる不飽和土壌の複素誘電スペクトルの評価
上村 将彰中川 啓宮本 英揮
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2020 年 32 巻 4 号 p. 201-207

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抄録

本研究では,体積含水率(θ)の異なる豊浦砂の ε'sand スペクトルの態様を明らかにするために,2つの異なる手法,すなわち,ベクトルネットワークアナライザー(VNA)を利用した反復測定と,既往のモデルの改良・統合によって誘導した改良型誘電率混合モデルに基づく計算によって,θの異なる豊浦砂の ε'sand スペクトルを評価するとともに,両法による評価結果を比較した.測定した ε'sand スペクトルは,高θ条件ほど大きくなったものの,そのばらつきも大きくなった.特に,最密充填条件(0.21 m3 m-3)を越えるθ≥ 0.23 m3 m-3では,供試土壌の転圧に伴う土粒子-水-空気の配列の変化に起因する測定の再現性低下により,スペクトルのばらつきが拡大した(Fig. 6). ε'sand スペクトルのばらつきが比較的小さかったθ ≤ 0.19 m3 m-3では,高θの条件ほど ε'sand スペクトルは大きく,周波数(ƒ)への依存性も強くなることが明らかになった.一方,改良型誘電率混合モデルに基づく ε'sand スペクトルの計算値は,θ ≤ 0.19 m3 m-3に限り,測定したε'sand の平均スペクトルと同一水準の分布となった(Fig. 8).この測定値と計算値の共通性は,両法によって得られたスペクトルの信頼性を相互に担保するものと考える.しかし,モデルに基づくスペクトルは,ƒに対する平均スペクトルの勾配を再現することができなかったことから,モデル誘導時に無視した吸着水の存在を考慮する必要性が示唆された.土粒子表面の吸着水の挙動については不明な点が多いため,コロイド化学分野の研究の進展を待った後,改めて改良型誘電率混合モデルの改良に組み込むことが必要となろう.以上のように,高θ条件における ε'sand スペクトル測定手法や,吸着水の存在を考慮したモデルの構築等の課題が残るものの,本研究を通して,これまでに測定事例のない不飽和水分土壌の ε'sand スペクトルの態様の一端を明らかにした意義は大きい.今後は,ε'sand スペクトルの測定手法およびモデルの改良に取り組み,より精度の高い水分不飽和土壌の ε'sand スペクトルの評価手法の確立を目指す予定である.

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© 2020日本生物環境工学会
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