植物環境工学
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論文
  • 杉山 睦, 篠田 倫太郎, 中川 陽菜, 内田 悠登, 岡嶋 真由
    2025 年 37 巻 1 号 p. 5-11
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,植物の内部状態をリアルタイムでモニタリングするために,電気化学インピーダンス法(EIS)を応用する新たな手法を提案し,その有効性の可能性を実証した.EISは,周波数を変化させた微小交流信号を印加し,インピーダンス値の周波数依存性を解析する手法であるが,本研究ではこれを植物に応用することで,従来の外見に依存したリモートセンシング技術では得られない内部情報を取得することができることを紹介した.本稿では,これまで理想的な環境下におけるゼニゴケなどの植物に対して行ってきたEIS測定と,そこから得られた知見・モデルを用いて,典型的農作物の一例であるトマトを対象にEIS測定を行い,トマトの生長過程におけるEIS測定結果を詳細に解析した.トマトの生長段階に応じてCPE-p値やτ値が変動し,植物の内部状態がリアルタイムに観察可能である可能性があることが示唆された.今後は生長段階や系統的なストレス応答を示す客観的なデータを習得するとともに,天候や土壌の水分量など変動する要因の影響をコントロールしながらの測定を実施する必要がある.植物の健康状態や生長度合いを正確に把握し,適切な栽培管理を行うことで,収穫量の向上や資源の効率的な利用の可能性が,まだ僅かではあるもののあることが示唆された.もちろんさらなる研究の進展が必須ではあるものの,本研究の成果は農業のDX化やスマート農業の実現に一石を投じることが期待される.具体的には,EIS測定を用いたリアルタイムモニタリング技術を導入することで,野菜や果樹などの健康状態や生長過程を正確に把握し,適切な栽培管理を行える可能性を秘めている.これにより,収穫量の向上や温室の温度管理,過不足ない施肥による資源の効率的な利用などが期待できる.また,環境変動やストレス応答に迅速に対応できる可能性を有しているため,気候変動などの影響を受けやすい農業において特に有用である.本研究は,これらの課題解決に向けた重要なステップとなり,農業分野における新たな技術革新の可能性を示すものである.今後は,さらに多くの植物種や異なる環境条件下でのEIS測定を行い,より広範な応用可能性を検討することが必要である.

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