【背景と目的】
オートファジーは炎症性腸疾患と関連しているが,消化管の生体バリア機構である腸上皮細胞におけるオートファジーの役割は未だ解明されていない点が多い.そこで今回我々は,腸上皮細胞におけるオートファジーが消化管の炎症に及ぼす影響を検討した.
【方法】
Atg5 floxマウスとvillin-Cre発現マウスを交配させ,腸上皮細胞特異的にAtg5をノックアウトしたATG5 flox/flox; villin-Creマウスを作製した.8-10週齢のwild typeマウス(WT)およびATG5 flox/flox; villin-Creマウスを用いて2.5% dextran sulfate sodium (DSS)を6日間投与してDSS腸炎を作製し,腸炎の比較評価を行った.またin vitroでの検討として,ラット小腸上皮細胞株IEC-6にshRNAを導入してAtg5をノックダウン(IEC6shAtg5)し,オートファジー不全が炎症に関わる機序を検討した.
【結果】
ATG5 flox/flox; villin-Creマウスを用いてDSS腸炎を作製したところ,WTと比較して有意に体重が減少し,大腸腸管長が短縮し,RT-PCR法で大腸組織の炎症性サイトカイン遺伝子の発現が上昇した.IEC6shAtg5ではIEC-6と比較してアポトーシスが亢進し,cell viabilityが有意に低下した.またIEC6shAtg5では炎症性サイトカイン遺伝子の発現が恒常的に著明に上昇しており,これらは活性酸素除去剤:N-Acetyl-L-cysteineの添加にて有意に抑制されたことから,オートファジー抑制により酸化ストレスが蓄積し,炎症性サイトカインが上昇したと考えられた.また炎症性サイトカイン遺伝子の発現はmitogen-activated protein kinase kinase阻害剤の添加にても有意に抑制され,MAPKシグナルの関与が示された.さらにIEC6shAtg5ではwestern blottingにてNF-κB p65のリン酸化が増強していた.
【結論】
腸上皮細胞のオートファジーは腸の恒常性を維持するために重要な役割を果たしており,オートファジー不全は酸化ストレス応答を介して炎症を惹起する.