小腸出血の診断・治療は、今世紀に入るまで腹部血管造影と動脈塞栓術、push式小腸内視鏡、術中内視鏡によって行われていた。カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡が登場したことで、全小腸において内視鏡診断・治療が可能になり、診断・治療戦略は大きく変わった。
ダブルバルーン内視鏡に続いてシングルバルーン内視鏡が登場し、電動スパイラル小腸内視鏡も登場した。これらdevice assisted enteroscopyにより、出血部位に内視鏡で到達することが可能になったが、活動性出血による視野不良で止血術が困難な場合がある。透明なgelを注入して視野確保するgel immersion法を用いれば、血性腸液と凝血塊を押しのけて透明な空間を作り出し、良好な視野で止血術を行うことができる。
出血のタイミングで検査しなければ病変同定が困難な血管性病変Type 2aや、内視鏡の操作性の問題で視野が制限されやすい深部十二指腸の病変など、出血源同定に複数回の検査を要する場合がある。出血源を同定できれば、病変に応じた治療法選択が可能となり、止血クリップ、アルゴンプラズマ凝固、ポリドカノール局注、外科的切除、血管造影下塞栓術などの治療が可能となる。ただし、胆管空腸吻合部近傍の血管性病変や静脈瘤など、最適な止血方法が確立されていない病変も残っている。
血管性病変では内視鏡治療を行っても、異時多発で出血を繰り返す場合もある。血管性病変の発生には、心疾患・肝疾患・腎疾患等の背景疾患による小腸末梢組織での酸素分圧の低下から血管新生を生じやすいと考えられており、背景疾患に対する治療により再出血が減少した報告もある。背景疾患に対する治療も困難な場合には、ホルモン療法、ソマトスタチンアナログ、サリドマイド、抗血管新生療法が選択される場合がある。
このように小腸出血の診断・治療は進歩してきたが、検査タイミング、同時多発、異時多発、背景疾患の問題から、診断・治療が困難なことも珍しくなく、数多くの課題が残されている。