2024 年 45 巻 1 号 p. 22-26
国立成育医療研究センターで,2014年から2023年でOSA(Obstructive Sleep Apnea)に対しCPAP(Continuous Positive Airway Pressure)を導入した20症例で,年齢,体重,原疾患,患者背景,外科的介入,継続性,関わった専門診療科を検討した.12例が10歳未満,6例が体重10 kg未満であった.15例が上気道疾患以外に,多くが遺伝性疾患を有していた.病態は,扁桃・アデノイド肥大以外のOSA,扁桃・アデノイド肥大以外のOSA+中枢性無呼吸,呼吸器疾患で,7例が耳鼻咽喉科手術を受け,14例はCPAPを継続でき,3例のみCPAPを離脱できた.初診は,総合診療部に続き,新生児科,耳鼻咽喉科が多く,管理には多くの専門診療科(中央値9)が関与していた.小児高度医療施設では,多職種連携による全身的治療が必要であり,小児科医の果たすべき役割は大きい.
小児のObstructive Sleep Apnea(OSA)は,鼾や無呼吸,覚醒不良,日中の活動性の低下や昼寝,発達発育障害,行動異常などを理由に,小児科や耳鼻科を受診した後に,診断されることが一般的である.しかし,小児高度医療施設では,さまざまな専門医が通常とは異なる目的で患者の紹介を受け,各専門医による診察後に,多角的な診断・治療の中でOSA患者を集約的に管理する機会が多くみられる.治療においては,鼻腔開通のための内科的治療や,耳鼻科医による肥大した扁桃・アデノイドの切除が一般的であり,CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)治療を導入することは少ないが,小児高度医療機関では,扁桃・アデノイド切除が適応でなかったり,扁桃・アデノイド切除後も症状が持続したりするため,CPAPを適用しなければならない症例も見られる1).さらに,このような患者では,上気道の管理だけでなく,全身管理も必要となることも多い2).
国立成育医療研究センターにおけるOSAの管理で,CPAP導入が必要な患者の検討を通して病態像を明らかするとともに,診断・治療における一般小児科医の役割を明らかにする.
国立成育医療研究センターの患者データを用いた後方視的研究を行った.期間は,2014年3月から2023年7月で,OSAに対してCPAP治療を導入した患者を対象とした.診療録より,性別,CPAP開始時の年齢と体重,原疾患,CPAPを必要とした病態などの患者背景に加え,耳鼻咽喉科による外科的介入,CPAP治療の継続性を含めた現状と離脱の理由,最初に患者の治療と担当した専門診療科,患者の治療に関わった専門診療科について検討した.
性 | 年齢 | 体重(Kg) | 基礎疾患 | CPAPを必要とした病態 | 耳鼻咽喉科による外科的介入 | CPAP治療 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | F | 0 | 3.5 | トリソミー18 | 中枢性・閉塞性無呼吸 | 継続 | |
2 | F | 0 | 4.2 | 15q欠失 | 先天性低形成肺 | 継続 | |
3 | M | 2 | 8.8 | 滑脳症 | 喉頭軟化症/痙攣 | 継続 | |
4 | M | 7 | 20 | VACTER連合 | 喉頭狭窄 | CPAP前 扁桃・アデノイド切除及び気管切開チューブ抜去 |
継続 |
5 | M | 7 | 23 | CHARGE症候群 | 喉頭軟化症 | 継続 | |
6 | M | 7 | 21.7 | ピエール・ロバン症候群 | 上気道狭窄症 | 経鼻エアウエイ | 継続 |
7 | M | 8 | 18 | トリソミー21 | 喉頭狭窄症 | CPAP後扁桃・アデノイド切除 | 継続 |
8 | F | 9 | 30 | 線状骨症一頭蓋骨硬化症 | 喉頭狭窄症 | CPAP前扁桃・アデノイド切除 | 継続 |
9 | F | 9 | 60 | プラダー・ウィリー症候群 | 閉塞性無呼吸 | 継続 | |
10 | M | 10 | 50 | 声門下狭窄症 | 喉頭/声門下狭窄症 | 肋軟骨を用いた喉頭形成術 | 継続 |
11 | F | 10 | 45 | 喉頭狭窄症 | 喉頭狭窄症 | CPAP前扁桃・アデノイド切除 | 継続 |
12 | M | 14 | 28 | 先天性横隔膜ヘルニア | 先天性低形成肺 | 継続 | |
13 | M | 14 | 38 | 喉頭狭窄症 | 喉頭/気管狭窄症 | 喉頭気管再建術 | 継続 |
14 | M | 16 | 42 | ヌーナン症候群 | 喉頭軟化症 | 継続 | |
15 | M | 0 | 4.5 | シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群 | 喉頭狭窄症 | 離脱 | |
16 | M | 0 | 5.5 | 喉頭軟化症 | 喉頭軟化症 | 離脱 | |
17 | M | 10 | 30 | 軟骨無形成症 | 閉塞性無呼吸 | CPAP前扁桃・アデノイド切除 | 離脱 |
18 | M | 0 | 8 | ミトコンドリア脳筋症 | 喉頭軟化症 | 気管切開&人工呼吸管理 | |
19 | F | 10 | 18 | アイカルディ症候群 | 中枢性・閉塞性無呼吸 | 気管切開&人工呼吸管理 | |
20 | M | 18 | 38.8 | ムコ多糖症IVA型 | 気管狭窄 | 死亡 |
OSAに対してCPAP治療を導入できた患者は,20例で,男子15例,女子5例であった.CPAP療法を開始した年齢は2ヵ月から18歳で,中央値は8歳,10歳未満は,12例であった.CPAP開始時の体重は,3.5 kgから60 kgで,中央値は22.4 kg,6例が体重10 kg未満であった.原疾患に関しては,18トリソミーや21トリソミーなどの染色体異常や,ミトコンドリア異常やエピジェネティックス異常などの遺伝子異常などの多くの遺伝性疾患が含まれていた.CPAPを必要としたOSAを引き起こす病態以外に,15症例で,原疾患に合併する上気道疾患以外の原疾患を有していた.耳鼻咽喉科による外科的介入に関しては,7例はCPAP開始前または開始後に耳鼻咽喉科手術を受けていた.20例の患者のうち,14例はCPAPを継続することができたが,2例は気管切開と人工呼吸管理を受け,1例は残念ながら進行性の呼吸不全のために死亡した.症状の改善によりCPAPを離脱できた患者は3例のみであった.
2.基礎疾患の病態分類と治療に関与した専門診療科数(表2)基礎疾患 | 初診時診療科 | 治療に関与した専門診療科数 | |
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扁桃・アデノイド肥大以外のOSA※ | VACTER連合 | 耳鼻咽喉科 | 10 |
CHARGE症候群 | 総合診療部(小児科) | 10 | |
ピエール・ロバン症候群 | 新生児科 | 7 | |
ムコ多糖症IVA型 | 内分泌代謝科 | 7 | |
プラダー・ウィリー症候群 | 内分泌科 | 6 | |
シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群 | 新生児科 | 9 | |
線状骨症一頭蓋骨硬化症 | 耳鼻咽喉科 | 9 | |
軟骨無形成症 | 整形外科 | 12 | |
声門下狭窄症 | 耳鼻咽喉科 | 2 総合診療部(小児科) | |
喉頭狭窄症 | 総合診療部(小児科) | 3 | |
喉頭狭窄症 | 耳鼻咽喉科 | 6 | |
喉頭軟化症 | 呼吸器内科 | 2 耳鼻咽喉科 | |
扁桃・アデノイド肥大以外のOSA+中枢性無呼吸※ | トリソミー21 | 総合診療部(小児科) | 3 |
トリソミー18 | 新生児科 | 8 | |
15q欠失 | 総合診療部(小児科) | 9 | |
アイカルディ症候群 | 総合診療部(小児科) | 10 | |
滑脳症 | 総合診療部(小児科) | 11 | |
ヌーナン症候群 | 形成外科 | 11 | |
ミトコンドリア脳筋症 | 神経内科 | 4 | |
呼吸器疾患※ | 先天性横隔膜ヘルニア | 新生児科 | 10 |
※ Principle and Practice of Pediatric Sleep Medicine 2nd Non-Invasive Positive Airway Pressure Treatment, Box35-1の基づく分類
基礎疾患は,Principle and Practice of Pediatric Sleep Medicine 2nd Non-Invasive Positive Airway Pressure Treatment, Box35-13)に従うと,扁桃・アデノイド肥大以外のOSA:VACTER連合,CHARGE症候群,ピエール・ロバン症候群,ムコ多糖症IVA型,プラダー・ウィリー症候群,シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群,線状骨症一頭蓋骨硬化症,軟骨無形成症4),扁桃・アデノイド肥大以外のOSA+中枢性無呼吸:21トリソミー,18トリソミー,15q欠失,アイカルディ症候群,ヌーナン症候群,ミトコンドリア脳筋症,呼吸器疾患:先天性横隔膜ヘルニアの3つに分類できた.初診時に患者の診療を行った専門診療科は,総合診療部が6例で最も多く,次に新生児科と耳鼻咽喉科が4例で,他に,神経内科,内分泌科,内分泌代謝科,呼吸器外科,整形外科,形成外科など多数の専門科が患者の初期評価を行っていた.さらに,その後の管理には非常に多くの専門診療科が関与しており,声門下狭窄症や喉頭軟化症では耳鼻咽喉科以外に呼吸器内科や,総合診療部(小児科)の2つの専門診療科であったが,軟骨無形成症には12の専門診療科が関わっており,中央値では9の専門診療科が関与していた.
3.治療に関与した専門診療科別患者数(図1)治療に関与した専門診療科別患者数に関しては,耳鼻咽喉科は20例ですべてのOSA患者の診療に関与していたが,総合診療部科が18例と耳鼻咽喉科に次いで多かった.その他,リハビリテーション科と歯科が12例,循環器科内科11例,整形外科10例,内分泌科9例,遺伝診療科8例,形成外科7例,皮膚科,外科,眼科が5例,新生児科,呼吸器内科が4例,泌尿器科,脳神経外科,神経内科が3例で,心臓外科,腎臓内科が2例で,以下内分泌代謝科,血液腫瘍科,アレルギー科,消化器内科など多くの専門診療科の医師が患者の治療に関与していた.
小児高度医療施設である国立成育医療研究センターにおけるOSAに対するCPAP治療を必要とした患者の多くが基礎疾患として遺伝性疾患を持っていた.これらの疾患の多くは,頭蓋顔面異常や筋緊張低下から生じるOSAに対してCPAP治療を必要としていた5–7).さらに,これらの患者では原疾患に合併する上気道疾患以外の原疾患を有していた8–12).そのために,OSAを含め,患者の管理には,耳鼻科だけでなく,総合診療部をはじめとする多くの専門診療科が関与していたことが明らかとなった.当院で,一般小児科が最も多く関与している理由は3つあると考えられる.
第一に,一般小児科がしばしば初期治療の拠点となったこと,第二に,当院は,胎児診断,胎児治療を行う周産期センターであるために先天性の疾患を持った新生児がNICUに入院することもあり,NICU退院後に多くの患者が新生児科から一般小児科に転科されることが多いこと.第三に,当院での周産期診療や,高度小児医療機関のために,ほとんどの患者がOSA管理以外の全身的治療を必要とする基礎疾患を有していたことが考えられる.
小児におけるOSASの診断,治療では,CPAPも含め,適切なデバイスや十分な診断や治療環境が整ってないことも含め様々な困難を伴うことが少なくない.さらに,小児高度医療機関では,CPAP治療が必要なOSA患者の多くは,上気道管理だけでなく全身管理が必要な原疾患を有しており,これらの患者の診断や治療のためには,多職種連携は非常に重要であり,その中で,小児科医の役割は大きい.高度医療施設における小児OSAの管理は,診断と治療を含む多面的なアプローチを必要とすることが多い.安全で効果的な診断と治療のために,多くの異なる診療科が連携して診療するための構造化された枠組みが不可欠である.
利益相反に該当する事項:なし