小児耳鼻咽喉科
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原著
小児期に気管切開された既製品気管カニューレ不適合症例に特注カニューレが必要となる予測因子について
宮本 憲征原田 祥太郎上野 裕也岡﨑 鈴代
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2024 年 45 巻 2 号 p. 122-128

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Abstract

小児気管切開患者では,脊椎側弯が進行し気管の形状が変化することがあり,そのような症例では気管カニューレ管理に難渋し,長さ可変式カニューレやひいては特注カニューレが必要になることがある.今回我々は,特注カニューレが必要となる予測因子を明らかにするため,当科で長さ可変式カニューレを使用した症例を,既製品である長さ可変式カニューレのみで対応可能であった12例(可変式群)と,特注カニューレが必要であった3例(特注群)に分け,2群を比較検討した.CTを用いた気管の画像解析を行ったところ,気管のねじれが特注群で有意に大きく,気管断面積が特注群で有意に小さかった.曲率は有意ではなかったが,特注群で大きい傾向にあった.断面積と曲率,および断面積とねじれを組み合わせた指標を作成したところ,断面積が85 mm2以下かつ曲率が0.45 m−1以上またはねじれが1.04以上であれば特注カニューレが必要となることが明らかになった.

Translated Abstract

Pediatric patients with a tracheostomy may develop scoliosis, altering the shape of the trachea. This change can make tracheal cannula management challenging, eventually requiring the use of adjustable length cannulas and custom cannulas. The aim of this study was to identify the factors predicting the requirement for custom cannulas. We compared two groups of cases that received adjustable-length cannulas: 12 cases in which the variable-length cannula alone was sufficient (adjustable length group), and three cases in which a custom cannula was necessary (custom group). CT of the trachea revealed significantly greater tracheal tortuosity and a significantly smaller tracheal cross-sectional area in the custom group. Although there was no significant difference in curvature, it was higher in the custom group. The formulation of indices that combine cross-sectional area with curvature, as well as cross-sectional area with tortuosity, indicated the necessity for a custom cannula when the cross-sectional area was below 85 mm2, and either curvature was higher than 0.45 m−1 or tortuosity was higher than 1.04.

はじめに

小児気管切開患者は気管が幼弱かつ狭小であり,管理が長期化することが多く,成長とともに形状変化が生じるため,成人に比べて合併症に注意が必要である.合併症としては,肉芽形成や出血,喀痰による窒息などがあげられる14).気管内に生じる肉芽はカニューレの物理的刺激により発生し,数日で急激に増大して窒息を引き起こすことがある.また気管腕頭動脈瘻を生じると,大量出血により約7割が死亡すると報告されており5),いずれも致死的な合併症となりうるため,予防が大切である.

小児気管切開患者の多くは先天性疾患や重症心身障害など寝たきりの児であり,背部の筋緊張などにより脊椎の側弯が進行することが多く,気管の変形につながる.気管の変形により気管カニューレと気管壁が接触することで,気管内肉芽が発生して管理に難渋することが多い.肉芽が発生した場合,気管カニューレ先端を肉芽から離すために,まずはカニューレのサイズやフランジの回転可動性を有するカニューレなどへの種類の変更,Y字ガーゼの厚みの変更を行う.一般的な気管カニューレで対応が困難な場合は,既製品の長さ可変式カニューレであるアジャストフィット®(富士システムズ株式会社)を使用し,長さの微調整を行うが,それでも改善しない場合は特注カニューレが必要となる.特注カニューレは,患者のCT画像等をもとに,気管形状に合わせて作成するものであり,肉芽の予防が見込まれる一方で,問題点として価格が高く,作製の手間がかかることや納品期間が約2か月と長いことがあげられる.気管内肉芽の対応に難渋し始めてから作製を開始した場合,納品まで緊急入院や集中治療室での管理を要するなど,患者と医療者の双方に大きな負担となる.よって特注カニューレの必要性を早期に判断する必要があるが,その具体的な指標は,渉猟しえた範囲では報告はみられなかった.

長さ可変式カニューレに変更後も肉芽が軽快しない一因として,長さ可変式気管カニューレは先端付近の形状が直線的であり,気管の強い弯曲や変形がある場合には先端の気管壁への接触が避けられないという点が考えられた.

そこで今回われわれは,長さ可変式カニューレを使用した症例のCT画像を詳細に分析することにより,長さ可変式カニューレでも対応困難が予想される症例の予測因子を検討したので報告する.

方法

1.対象

2021年1月から2023年3月までの期間に大阪母子医療センター耳鼻咽喉科で気管カニューレ交換を実施した228例を対象として,上記期間中に一度でも長さ可変式カニューレであるアジャストフィット®を要した22例を抽出した.気管切開後の気管部CT画像のない4症例と当院での定期フォローを行っていない3症例を除外し,15例を解析対象とした.その15例を長さ可変式カニューレのみで対応可能であった12例(以下可変式群)と特注カニューレが必要であった3例(以下特注群)に分類し,比較検討した(図1).

図1 対象患者抽出のフローチャート

2.方法

対象症例について身長,体重,原疾患,気管軟化症・人工呼吸器・喉頭気管分離・腕頭動脈離断術の有無,側弯の程度,胸骨脊椎間距離に関するデータを診療録より抽出,集計した.側弯の程度はCobb角(胸部単純X線画像において最も傾いている2椎体間の角度)を用いた6)

気管内腔の曲率,ねじれ,気管断面積,扁平率は,CT画像のDICOMデータを画像解析ソフトiNtuition Viewer(TeraRecon,米国)に入力し,気管内腔に沿ったCurved Planar Reconstruction画像(以下CPR)を再構築画像として作成し,測定した(図2).曲率とは近似される円の半径の逆数であり,ねじれとは気管の実際の曲線距離を直線距離で割ったものである(図3).また扁平率は長径と短径の差を長径で割ったものである.CPRは3D空間上の任意の曲線に沿った曲面として再構成した画像で,血管や気管支等の管腔臓器においてはその中央に沿った曲面で切断した画像を得ることができる.気管内腔を自動でトレースし,ずれがある場合は手動で調整した.気管カニューレ部はカニューレ内の中心をトレースした.曲率とねじれはカニューレ先端を起点として前15 mmと後15 mmの併せて30 mmの間で評価し,気管断面積と扁平率は,カニューレ先端付近の気管の形状の代表値として,カニューレ先端から5 mm深部を評価した.

図2 Curved Planar Reconstruction(CPR)画像の1例

画像解析ソフトiNtuition Viewerを使用し,気管内腔に沿ったCPR画像を再構築した.

図3 曲率,ねじれの定義

r:近似される円の半径

a:直線距離 b:実際の曲線距離

統計ソフトはJMP pro 17を使用し,連続変数の比較にはWilcoxon検定,カテゴリー変数の比較にはFisherの正確確率検定を用いた.p値5%未満を有意と判定した.

本研究は大阪母子医療センター倫理委員会の承認を得て行った(承認番号1664).

結果

特注群3例についての患者背景を表1に示す.原疾患は脳性麻痺が2人,代謝異常が1人であり,3例とも側弯症を有していた.特注カニューレを使用する前のカニューレは,全て長さ可変式カニューレであるアジャストフィット®であった.

表1 特注群の患者背景

年齢 性別 原疾患 側弯症 特注以前のカニューレ 不適合となった理由 特注カニューレのベース
症例1 19 代謝異常 あり アジャストフィット カニューレの先当たり
肉芽形成
コーケン
シリコーンカニューレ
症例2 14 脳性麻痺 あり アジャストフィット カニューレの先当たり
肉芽形成
コーケン
シリコーンカニューレ
症例3 11 脳性麻痺 あり アジャストフィット カニューレの先当たり
肉芽形成
コーケン
シリコーンカニューレ

可変式群と特注群の患者背景について表2に示す.年齢は,可変式群では9–32歳(中央値22.5歳),特注群では11–19歳(中央値14歳)で有意差はみられなかった.気管切開手術時の年齢,術後年数についても両群で有意差をみとめなかった(p=0.56, 0.83).また性別については可変式群では男性8例,女性4例,特注群では男性2例,女性1例で男女比に差を認めなかった.その他身長,体重や原疾患における脳性麻痺の割合,気管軟化症・人工呼吸器・喉頭気管分離・腕頭動脈離断術の有無についても両群間に有意差はみられなかった(p=0.35, 0.28, 1.00, 0.57, 0.08, 1.00, 1.00).可変式群の原疾患については,脳性麻痺以外は代謝異常が2例,神経筋疾患が2例,染色体異常が1例,先天性形態異常が1例であった.

表2 可変式群と特注群の患者背景

可変式群(n=12) 特注群(n=3) p
年齢 中央値(歳) 22.5(9–32) 14(11–19) 0.13
気管切開時年齢 中央値(歳) 14(0–20) 2(1–17) 0.56
気管切開後年数 中央値(年) 10(1–23) 10(3–14) 0.83
性別 男:女(人) 8:4 2:1 1.00
身長 中央値(cm) 146.0(78.0–181.6) 136.0(115.5–149.5) 0.35
体重 中央値(kg) 31.6(11.0–56.4) 25.3(13.3–28.8) 0.28
原疾患 脳性麻痺(人) 6 2 1.00
気管軟化症 人(%) 7(58.3) 1(33.3) 0.57
人工呼吸器 人(%) 11(91.7) 1(33.3) 0.08
喉頭気管分離 人(%) 9(75.0) 3(100) 1.00
腕頭動脈離断 人(%) 4(33.3) 1(33.3) 1.00

Wilcoxon検定/Fisherの正確確率検定

p<0.05を有意差ありとした.有意差は認めなかった.

Cobb角,胸骨脊椎間距離は両群間で有意差はみられなかった(p=0.51, 0.83)(図4).

図4 可変式群と特注群におけるCobb角,胸骨椎骨間距離

どちらも2群間に有意差はなかった.

画像解析については,ねじれは,可変式群1.00–1.13(中央値1.02),特注群1.05–1.06(中央値1.06)で特注群が大きく,有意差がみられた(p=0.04)(図5).気管断面積は可変式群56–218 mm2(134 mm2),特注群41–81 mm2(53 mm2)で特注群が小さく,有意差がみられた(p=0.03).曲率では有意差はみられなかったが,特注群で大きい傾向がみられた(可変式群0.12–0.62 m−1(0.29 m−1)vs.特注群0.48–0.50 m−1(0.49 m−1),p=0.22).扁平率では両群間に有意差はみられなかった(p=0.22).

図5 可変式群と特注群における曲率,ねじれ,断面積,扁平率の比較

ねじれ,断面積で有意差をみとめた.

* p<0.05

面積と曲率,面積とねじれの2変数の散布図を図6に示す.閾値を適切に設定し,断面積が85 mm2以下かつ曲率が,0.45 m−1以上もしくは,断面積が85 mm2以下かつねじれが1.04以上の範囲には特注群の症例のみが分布していた.

図6 断面積と曲率および断面積とねじれの2変数の散布図

A:断面積と曲率の比較 B:断面積とねじれの比較

特注群は曲率またはねじれが大きく,断面積が小さい傾向にあった.

断面積の閾値を85 mm2とし,曲率0.45 m−1,ねじれ1.04の閾値とすると,特注カニューレの必要性を感度・特異度100%で予測できる.

考察

気管切開後の気管カニューレ管理については,気管内肉芽などの合併症が生じることがあり,注意が必要である.合併症の予防のために,内視鏡での気管内観察が有用であり,当院でも定期的に観察を行っている.定期的な観察に加えて,カニューレ変更時や,出血や換気のトラブルが起きた際にはその都度内視鏡検査を施行している.気管内肉芽などが発生した場合には,気管カニューレのサイズやフランジの回転可動性を有するカニューレなどへの種類の変更,Y字ガーゼの厚みの変更,長さ可変式カニューレへの変更などを行う.喉頭気管分離例などはカニューレフリーにすることも選択肢であるが,人工呼吸器の使用がある例などは不可能であり,また在宅ケアやデイ施設などでカニューレが入っていないと,吸引処置が不可能な場合が多いなどで,カニューレフリーでできる症例は当院では極めて稀である.

特注カニューレはカニューレ管理が困難な症例に対する有用性が報告されており,特に脊柱側弯の症例などで気管が弯曲している際に有用とされている7).当科では泉工医科工業株式会社と株式会社高研に依頼している.泉工医科工業ではベースとなるカニューレを選択し,長さ,カーブの角度,カーブの位置,フランジとパイプの取り付け角度などを変更するセミオーダーメイドでの作成が可能である.カニューレのカーブは1回のみに限定されるが,ベースのカニューレにカフありを選べばカフありにすることも可能である.高研はシリコーン製のオーダーメイドカニューレであり,フランジの回転可動性をもたせることや,2回カーブを作ること,途中で径を細くすることができ,より多彩な形状を作成可能である.ただしカフありには対応していない.

今回の特注群3例はいずれも,長さ可変式カニューレであるアジャストフィット®を使用して長さの微調整をしてもなお,カニューレ先端の先当たりによる気管内肉芽形成を防げず,特注カニューレの作成に至っていた.特注群3例のCT画像を図7に,特注カニューレの設計図を図8に示す.症例1と症例2では気管の形状に合わせてカニューレを2回カーブさせたものを作成している.

図7 特注群3例のCT画像

上はスカウト画像で下はカニューレ先端付近のCoronal画像

矢印は気管カニューレ先端

図8 特注群3例の特注カニューレの設計図

既製品カニューレが不適合となる予測因子については,渉猟し得た範囲では報告はみられなかった.

今回の研究では,年齢,気管切開手術時の年齢,術後年数,性別,身長,体重,原疾患における脳性麻痺の割合,気管軟化症・人工呼吸器・喉頭気管分離・腕頭動脈離断の有無について有意差はみられなかった.これらの因子は気管と気管カニューレの位置関係について大きな影響を与えるものではないと考えられた.気管軟化症は気管が扁平になることでカニューレが気管と接触しやすくなると考えられたが,今回の結果では有意差はみられなかった.

また側弯の程度を示すCobb角に有意差はみられなかった.Cobb角は脊椎側弯症の重症度を表す指標として広く利用されている7).Cobb角が大きいほど,胸郭変形や気管・動脈偏位に与える影響が大きくなり,気管カニューレが気管壁に接触しやすくなるため,気管腕頭動脈瘻のリスクが高くなるとされている8,9).同様の機序で,Cobb角が大きいと気管内肉芽が生じると考えられ,特注カニューレが必要になると予測したが,本研究の結果ではCobb角は有意な因子ではなかった.同様に,胸骨椎骨間距離についても気管腕頭動脈瘻のリスクとされているが,有意差はみられなかった.これらについては,我々の施設では,気管カニューレの変更時に,カニューレ先端が気管壁に接触していないことを必ずファイバーで確認しており,既製品のなかで適切なカニューレを選択することで,肉芽などの合併症を回避できていたと考えられる.

一方CT画像解析結果において,気管のねじれや断面積は有意差がみられた.また気管の曲率についても有意差はみられなかったものの,特注群で曲率が大きい傾向がみられた.これは脊椎弯曲の指標であるCobb角よりも実際にカニューレに接触する気管弯曲の指標の方がより直接的にカニューレ管理への影響を反映するためと考えられた.

「断面積と曲率」,または「断面積とねじれ」を組み合わせた指標を評価したところ,よりカニューレとの関係がはっきりした.曲率やねじれが大きく,かつ断面積が小さい場合に特注カニューレが必要となっていることが判明した.断面積の閾値を85 mm2,曲率,ねじれの閾値を各々0.45 m−1,1.04とすると,今回の症例では特注カニューレの必要性を感度100%,特異度100%で予測可能であった.側弯が強い症例では気管が弯曲したり,胸郭変形により気管が扁平に変形したりすることがあり,そのような症例ではカニューレにより肉芽が形成されるリスクが高いとされている10).今回の結果からは気管の扁平率ではなく,気管の弯曲(曲率,ねじれ)および,もともとの気管の太さ(断面積)も肉芽のできやすさに影響を与えることが示唆された.一方,気管の弯曲(曲率,ねじれ)が重度であっても,断面積が大きければ既製品である可変式カニューレで対応可能であることが示唆された.

今回の研究の限界として,症例数が少ないことがあげられる.また気管形状の評価に,気管カニューレが挿入された状態でのCT画像を用いたが,この状態では本来の気管形状を反映しない可能性がある.理想的には気管カニューレを一時的に抜去し,気管カニューレが入っていない状態でのCT画像を得ることが望ましい.また画像取得の時期が統一されていないため,可変式カニューレに変更した時点など,標準化されたタイミングでCT評価を行う必要がある.以上を考慮し,今後前向き研究を検討している.

まとめ

既製品カニューレでは対応が困難で特注カニューレが必要となる症例として,気管断面積と気管の弯曲度(曲率やねじれ)を組み合わせた指標が,予測因子となることが示唆された.

謝辞

本研究での画像解析についてご指導いただきました大阪大学大学院医学系研究科神経内科学講座助教岡﨑周平先生に深謝いたします.

利益相反に該当する事項:なし

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