2024 年 45 巻 2 号 p. 159-163
下咽頭梨状陥凹瘻に対して,経口腔的に瘻管を摘出する内視鏡下瘻管摘出術が近年報告されるようになった.当科でも2例の経験を得たので報告する.
(症例1)13歳男児.前医で2年前に左前頸部膿瘍にて切開排膿を受けた.受診の1ヶ月前に膿瘍が再発したため当科を紹介された.術前に下咽頭造影および咽喉頭内視鏡検査により瘻孔を同定することができた.手術2週間前にも膿瘍の再発を認めたが抗菌薬治療で消炎後に同手術を施行した.
(症例2)6歳男児.4歳時に左咽頭後壁から甲状腺左葉にかけての膿瘍形成があり切開排膿を受けた.下咽頭造影や咽喉頭内視鏡検査では瘻孔は同定されなかったが,経過から梨状陥凹瘻が強く疑われ同手術を施行した.
いずれの症例においても,術中に下咽頭を十分に展開し内視鏡で観察することにより容易に瘻孔の同定・切除が可能であった.
2症例とも術後経過は良好で,合併症や膿瘍再発は認めていない.
Recently, endoscopic piriformis fistulectomy for hypopharyngeal piriform sinus fistula (PSF) has been reported. As a result, we present two cases that underwent this procedure.
Case 1: A 13-year-old boy had a history of drainage of a left cervical abscess two years before coming to our hospital. The abscess recurred one month prior to his visit, thus he was referred to our department for further evaluation and treatment. Hypopharyngeal fluorography confirmed a PSF. Two weeks before surgery, the patient received antibiotic treatment for a fever and cervical edema.
Case 2: A 6-year-old boy had a history of an abscess extending from the left pharyngeal wall to the left lobe of the thyroid gland that was drained 2 years prior to presentation. Hypopharyngeal fluorography did not reveal a PSF, but given the clinical course, a PSF was highly suspected, and the treatment was initiated.
In both cases, the PSF was easily identified by detailed endoscopic observation of the hypopharynx under general anesthesia. The mucosa around the fistula was incised with an electric needle knife, and the fistula was traced to the submucosal margin of the thyroid cartilage, which was then resected. The postoperative course was uneventful, with no complications or recurrence of abscess in either case.
梨状陥凹瘻は1973年にTucker et al.によって初めて報告された先天性の内瘻であり1),第3,4咽頭嚢の遺残に由来すると言われている2).瘻孔内に遺物や細菌が流入して貯留することで炎症を引き起こし,反復する化膿性甲状腺炎や頸部膿瘍の原因となる.
治療法には瘻管・甲状腺の一部を切除する手術が最も古くから報告されているが,甲状腺部分切除による甲状腺機能低下や反回神経麻痺のリスク,炎症による癒着により瘻管が同定できない可能性もある.確実に瘻管を摘出するために,手術時に瘻管を確認しやすくする工夫が必要となり,ピオクタニン液の術前内服や,術中直達喉頭鏡下での同液の瘻孔内注入が報告されている3,4).また,切除を確実なものとするために甲状咽頭筋を切開し甲状軟骨を内側に翻転することで梨状陥凹と瘻孔を確認する方法が報告されている4).
一方,外切開を行わない術式として,電気的あるいは化学的な焼灼術が報告されているが5–7),近年では咽喉頭表在癌に行われるようになったtransoral videolaryngoscopic surgery(TOVS)の術式を応用して内視鏡的に瘻管を摘出する内視鏡下瘻管摘出術が報告されるようになった8).
内視鏡下瘻管摘出術は2015年に上出らにより報告された術式で,咽頭側の瘻孔開口部を同定し,瘻孔周囲を切開・剥離することにより瘻管を確実に摘出する方法である8).咽頭側の瘻孔開口部は感染による瘢痕化の影響が少なく,瘻孔内にチューブなどを挿入することで,走行に沿った剥離が可能となる.瘻管を摘出することで,感染経路を確実に遮断することができ,高い根治性が期待されている9).
今回我々は下咽頭梨状陥凹瘻に対して内視鏡下瘻管摘出術を行った2例を経験したため,術式と経過を報告する.
13歳男児.当科受診の2年前に前医で左頸部膿瘍にて切開排膿され,当科受診の1ヶ月前に膿瘍が再発したため精査加療目的で当科を紹介受診した.初診時の頸部の所見を図1,膿瘍再発時のCT所見を図2に示す.初診時には咽喉頭内視鏡検査では瘻孔は確認できなかったが,下咽頭造影にて左下咽頭から甲状腺左葉への瘻管を認めたため下咽頭梨状陥凹瘻と診断した(図3 a).根治治療を強く希望したため,外切開による甲状腺および瘻管の摘出術,経口腔的化学焼灼術,および内視鏡下瘻管摘出術について説明し,内視鏡下での摘出術を行うこととなった.

左下頸部皮膚に肉芽形成を認める.

矢頭:甲状腺上極から頸部に膿瘍形成を認める.

a:下咽頭造影検査.矢頭:瘻管内に造影剤の貯留を認める.
b:術前の咽喉頭内視鏡検査所見.矢頭:左梨陥凹の瘻孔.*:披裂部.
手術2週間前に頸部膿瘍の再発を認め抗菌薬治療を開始した.手術6日前から入院して抗菌薬治療(SBT/ABPC 150 mg/kg/day 分3)を行い手術までに消炎可能であった.また,手術前日には咽喉頭内視鏡検査で瘻孔を確認することができた(図3 b).
手術所見)全身麻酔下にFK-WOリトラクターで下咽頭を展開し,径5 mmの先端弯曲型内視鏡EndoEye Flex(Olympus)を用いて術野を得た.食道入口部近傍左側に明確に瘻孔を認めた(図4).4Frアトムチューブを瘻孔に挿入し瘻管長を測定したところ15 mmであった.粘膜下に生理食塩水を注射し組織を浮かせた後にディスポーザブル高周波ナイフKD-600(Olympus)で瘻孔周囲を切開しアトムチューブを挿入した状態で瘻管を剥離していった.瘻管と周囲組織は明瞭に視認可能であった.甲状軟骨下角の尾側端を鉗子で触れる位置まで剥離を進めると出血の増加を認め,すでに15 mm程度の剥離が完了していたため同部で切断した.切開した粘膜をポリグラクチン縫合糸で縫合し,経鼻栄養チューブを挿入して手術を終了した.手術時間は103分,出血量は少量であった.

矢頭:左梨陥凹の瘻孔.矢印:食道入口部.*:披裂部.
術後経過)術翌日の喉頭浮腫はごく軽度で(図5),同日から飲水を開始し,術後3日目から常食の摂取を開始した.問題なく経過し術後7日で退院した.術後12ヶ月時点で膿瘍の再発を認めていない.

明らかな喉頭浮腫は認めない.
6歳男児.4歳4ヶ月時に前医にて左咽頭後壁から甲状腺左葉にかけての膿瘍形成を認め,精査加療目的にて紹介受診した.初診時に切開排膿を行いおよび抗菌薬治療にて消炎を図り,頸部腫脹がないタイミングで2回下咽頭造影検査を施行したが,瘻孔は同定されなかった.経過観察していたが,5歳0ヶ月,6歳0ヶ月時にも左頸部に膿瘍形成あり(図6),いずれも切開排膿および抗菌薬治療(SBT/ABPC 200 mg/kg/day 分4)を行った.経過から下咽頭梨状陥凹瘻が強く疑われたため,内視鏡下に瘻孔を検索し,同定可能であればそのまま摘出を行う方針とした.

矢頭:左頸部に膿瘍形成を認める.
手術所見)全身麻酔下にKleinsasser前交連用直達喉頭鏡を用いて喉頭展開し,径4 mmの0°硬性鏡を用いて左梨状陥凹底部に瘻孔の咽頭開口部を確認した(図7 a).4Frアトムチューブの挿入を試みたが,咽頭開口部が狭いため挿入できなかった.高周波ナイフKD-600を用いて瘻孔周囲の粘膜を切離し,甲状軟骨下角の尾側端を鉗子で触れる位置まで剥離した.剥離した瘻管の最深部をポリグラクチン縫合糸で結紮して瘻孔を摘出し(図7 b),切開した粘膜を同縫合糸で2針縫合し手術を終了した(図7 c).手術時間は101分,出血量は少量であった.

a:矢頭:左梨状陥凹の瘻孔.矢印:食道入口部.*:披裂部.
b:瘻管の切除後.
c:切開した粘膜の縫合後.
術後経過)術翌日の喉頭浮腫はわずかで,同日からゼリー食開始し,術後2日目から常食の摂取を開始した.問題なく経過し術後4日で退院した.術後3カ月時点で膿瘍の再発を認めていない.
下咽頭梨状陥凹瘻は第3,4咽頭嚢の遺残に由来すると言われており,反復する化膿性甲状腺炎や頸部膿瘍の原因となる.
瘻孔の同定は当疾患の診断のみならず治療においても極めて重要である.解剖学的な位置関係や多くの患者が小児であることから,局所麻酔下での咽喉頭内視鏡検査では瘻孔の同定が困難なことがあり,その場合は下咽頭造影検査を行う必要がある.感染直後は瘻孔周囲の炎症や浮腫により瘻孔が同定できないことも多く,中多らは,診断確定までに平均1.7回の下咽頭造影検査を要したと報告している3).そのため,複数回の下咽頭造影検査が必要となることもある.
我々が経験した症例では,症例1では1回目の造影検査で同定可能であり,内視鏡的にも確認し得たが,症例2では2回の造影検査でも瘻孔は同定できずに,全身麻酔下,直達喉頭鏡下での硬性鏡による詳細な観察によってはじめて瘻孔を同定できたため同時に摘出手術を行った.手術所見では4Frのアトムチューブが挿入出来ないほど狭い瘻孔であり,術前検査での同定が極めて困難な症例であったことが推察され,全身麻酔下での下咽頭の観察による診断の有用性が示唆された.
内視鏡下瘻管摘出術以外の治療の選択肢としては,従来の外切開による摘出術以外に,低侵襲な方法として,高周波凝固を用いた電気的焼灼術,硝酸銀やトリクロロ酢酸を注入する化学的焼灼術が挙げられる(表1).電気焼灼術は,瘻管内にワイヤー電極を挿入し引き抜きながら10 W程度の電力で焼灼を行う術式であり5),1998年にJordan et al.により報告された.また,後述する化学的焼灼術を併用したり,フィブリン糊を瘻孔部に注入したりすることにより再発率を下げる試みもある10).しかしながら,石永らは14例中4例(21%)に焼灼後の頸部感染を認めたと報告しており,そのうち2例では術後数日内に発症していた.
| 主な報告者 | 長所 | 短所 | 合併症 | 非再発率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 外切開 | Nicoucar et al.(377例)12) | 喉頭展開困難な症例でも可能 | 切開創,長期入院,瘻管周囲の瘢痕形成 | 反回神経麻痺,唾液瘻 | 85% |
| 電気焼灼 | Wong et al.(3例)15) Sun et al.(23例)7) Ishinaga et al.(8例)10) |
手術時間の短縮,早期退院 | 喉頭展開が必要 | 一過性反回神経麻痺 | 75–91.3% |
| 化学的焼灼 | Cha et al.(44例)6) Park et al.(46例)14) |
手術時間の短縮,早期退院 | 喉頭展開が必要 一過性反回神経麻痺 食道入口部狭窄のリスク |
一過性反回神経麻痺,食道狭窄のリスク | 77.3% |
| 内視鏡下瘻孔摘出術 | Kamide et al.(1例)8) 犬塚 他(2例)8) 笠原 他(1例)16) |
手術時間の短縮,早期退院 再発率の低さ |
喉頭展開が必要 | 合併症報告なし | 100% |
化学的焼灼術はトリクロロ酢酸や硝酸銀水溶液を用いて瘻管を焼灼,蛋白を凝固・変性させて瘻孔の咽頭開口部を閉鎖する方法である.10~40%トリクロロ酢酸を浸した小綿球で粘膜が白くなるまで焼灼を行い,処置後に生理食塩水で洗浄する.Kim et al.は,28例中5例(18%)に頸部膿瘍の再発を認め,そのうち3例では外切開による瘻管摘出術を要したと報告している11).
頸部外切開による瘻管摘出術では,瘻孔を同定して摘出できれば再発のリスクが低いとの報告があるが,頸部感染を反復した症例では周囲の組織との癒着から瘻孔自体の同定が容易ではなく,反回神経麻痺や血管損傷のリスクも高くなると報告されている12).
電気的焼灼術,化学的焼灼術は皮膚切開を伴わないため審美性に優れ,手術時間や入院期間を短縮できる点で優れているが,瘻管自体は残存する術式であり,術後に頸部膿瘍や一過性の反回神経麻痺が出現した症例も散見され13–15),化学的焼灼に使用された薬剤が食道へ漏出して食道狭窄をきたす危険性も指摘されている14).
下咽頭梨状陥凹瘻は幼少期以降に反復する頸部感染症にて発見されることが多く,発症年齢は平均8歳と言われており16),上記のリスクを避けつつ,根治を目指す治療が理想的である.今回我々が行った内視鏡下瘻管摘出術は,2017年に犬塚らが報告し,寺西ら,笠原らからも報告されている9,17,18).術式は,咽頭側の瘻孔開口部周辺粘膜を切開し,瘻管に沿って剥離して切離するものである.咽頭の粘膜切開部は吸収糸で縫合閉鎖するため,感染経路を遮断することができ,根治性を確保できる.また,瘻孔の咽頭開口部では,過去の感染や膿瘍形成による瘢痕化や癒着による影響が少なく,瘻管の剥離も容易と考えられる.2022年にYunらが36例の症例報告を行なっているが,内視鏡瘻管摘出術に加えて外切開術を併用した報告であり,一過性の反回神経麻痺などの合併症は内視鏡下瘻管摘出術によるものとは断定できない.
経口的内視鏡下瘻管摘出術は電気焼灼術や化学的焼灼術よりもリスクの低い治療法となりうる(表2).現時点での症例報告では良好な成績であるが,まだ他の治療法と比較して症例が少なく経過観察期間が短いため,今後症例を蓄積し明らかにしていきたい.
下咽頭梨状陥凹瘻に対して内視鏡下瘻管摘出術を行った2症例を報告した.術前に瘻孔を同定できない場合には全身麻酔下での内視鏡検査あるいは直達喉頭鏡検査が有用であるが,当手術では一期的に同一視野での瘻孔切除が可能である.当手術は低侵襲かつ根治性も高いことが期待されるため,今後は下咽頭梨状陥凹瘻に対する第一選択の治療となりうると考えられた.
利益相反に該当する事項:なし