小児耳鼻咽喉科
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ランチョンセミナー2
小児気管支喘息への総合根本療法―心理療法の温故知新―
久徳 重和
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2025 年 46 巻 1 号 p. 20-24

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Abstract

現在では気管支喘息(以下喘息)は小児・成人ともに「気道の慢性炎症を特徴とする疾患」とされ,吸入ステロイド(ICS)などの長期管理薬による治療が推奨されている.しかしながら過去の幾多の報告からは,喘息は複数の発作誘発要因が複雑に絡み合った多因子性疾患であり,その多因子性への適切な対応がなされれば症状の著明な改善も得られることが示されている.そして複数の発作誘発要因の中でも心理的要因(以下心因)は喘息全体の病像を最も高い位置から支配しており,心理面での変動が喘息症状の悪化・改善に大きな影響を与え,時にはステロイド剤をも凌ぐ治療効果を発揮する事実も報告されている.筆者らはこれら複数の発作誘発要因を個々の患者において定量的に分析し,全ての発作誘発要因に対して其々の根本療法を総合的に実施する「総合根本療法」を実践し良好な成績を得ている.今回はこの総合根本療法の概略と小児喘息に対する治療成績などについて報告する.

はじめに

ヒポクラテスは「喘息になったら怒りを鎮めよ」と語ったといわれているが,喘息と心因の関わりについては古くから多くの報告がなされている.近代においても喘息と心因の関わりについては桂1)や滝野ら2)などによって報告されており,滝野らは戦時下の喘息において「戦場では殆ど全ての喘息患者は無発作となり,ただ生命に比較的危険が少ない将校だけが発作に悩んだ」,「満州の戦場を転戦した喘息患者が船上から日本の山川をみてその瞬間に発作が再発した」などと報告している.

小児喘息の分野では1920年ごろにPeshkinが提唱した「両親離断療法(Parentectomy)」が重症難治性小児喘息に対する心理療法の嚆矢とされている3).この療法は長期入院療法(施設療法)であり,重症難治性喘息児を家庭(両親)から切り離して施設入所させ,医師を含む多職種により構成された治療チームによる環境調整療法を行い喘息を難治化させている心理パターンを消去することを目的としている.入所期間は18~24ヶ月であり,退院後の予後は約3年の観察期間でExcellent 約65%,Good 約15%,Moderate 約13%,Failure 約7%と極めて良好なものであった.

久徳4)らは,鍛練療法,アレルギー対策(注射法による減感作療法 以下SCIT)および全身性ステロイドを含む対症療法を行っても奏功せず,喘息発作が連続または重積する重症難治性小児喘息患児37名(全受診者の1.8%)に対し,Peshkinの両親離断療法に倣った「両親離断入院通学療法」を実施し,入院後は「定期服薬は原則中止,規則正しく活動的な生活の励行,公共交通機関による外出などの社会適応訓練を実施,院内学級は避けて地域校へ通学」という生活を送らせたところ,発作は入院初日に56.9%までが改善し入院1週間後には84.3%まで発作が消失したと報告している.また鳥居ら5)は同様の重症難治性喘息患児46名に対し,SCIT以外の対症療法薬をすべて中止して抗不安薬(chlordiazepoxide)のみを単独投与したところ,46名中5名は症状が完全に消失し,27名は呼吸困難が消失,14名は不変であったと報告している.これらの結果から不安は小児喘息を重症難治化させる重要な心因になり得ると考えられた.

総合根本療法の始まり

久徳らは昭和30年代から喘息の多因子性に注目し,名古屋大学医学部小児科アレルギーグループにおいてその複雑性を解明することを目標とした「総合医学的な治療」を開始した.

具体的には喘息の多因子性の発作誘発要因を「心理的要因,生理的要因,アレルギー,気道過敏性」に分類して個々の患者について定量的に分析し,其々の要因に対しての「根本療法」を「総合的」に実施するという形の治療になる.そのための治療体制整備として自家製抗原による家屋塵のSCITを開始し(ちなみに喘息に対する家屋塵のSCITは名大発祥である),心理学教室と連携して生活指導・育児指導・心理指導などの心理面への対応(心理療法)も導入している6)

これらの総合的な取り組みを久徳は「気管支喘息の総合医学説」7)および「気管支喘息への総合根本療法」8)と称している(図1).総合医学説は喘息の成立と原因分析にかかわる理論であり,総合根本療法は根治療法についての理論といえる.総合医学説による喘息成立の基本的な考え方は「0~6歳時の生活習慣の影響から心理的および生理的な適応障害性(心身の不安定さ)が生じ,この心身の不安定さが一定のレベルを越えた時に副腎・交感神経系の機能失調が生じ(または閾値を越え)アレルギー感作と気道過敏性が成立して喘息の発症に至る」というものである.総合医学説の詳細については紙面の都合もあり本稿では割愛する.

図1 気管支喘息の総合医学説と総合根本療法(久徳1961)

総合根本療法の進め方

多くの小児喘息を詳細に観察してその発作のきっかけ(発作誘発要因)を分析してみると,「弟や妹の出生,入園・入学,行事の前後,週末」などの「生活・気分の変化(心理的要因)」,「春・秋,梅雨,雨の前,台風の前,寝入りばな・明け方」などの「自然環境の変化(生理的要因)」,「抗原との接触・暴露」などの「アレルギー」,「気道への刺激や気道感染」などの「気道過敏性」への刺激に分類することができる9,10).患児一人一人についてこれら四つの誘発要因の関わり方を詳細に分析することが治療の第一歩となる.

表1に筆者らが実施した心理的要因・生理的要因・アレルギーの関わりについての分析結果を示す.いずれの要因も年代を問わず患児の40~80%に関わっており,3要因が関わる多因子性症例が30~60%を占めていることがわかる.

表1 発作誘発要因の分析 人数(%)

誘発要因の内訳 昭和42年(%) 昭和53年(%) 昭和62年(%) 平成24年(%)
「心」のみ 31(5.4) 5(2.5) 2(0.9) 1(0.5)
「体」のみ 134(23.1) 14(7.0) 5(2.2) 25(12.1)
「アレルギー」のみ 24(4.1) 2(1.0) 0(0.0) 6(2.9)
「心」+「体」 132(22.8) 27(13.4) 30(13.0) 17(8.3)
「心」+「アレルギー」 21(3.6) 14(7.0) 10(4.3) 2(1.0)
「体」+「アレルギー」 94(16.2) 18(9.0) 39(16.9) 89(43.2)
「心」+「体」+「アレルギー」 144(24.8) 121(60.1) 145(62.7) 66(32.0)
「心」が関わるもの 328(56.6) 167(83.1) 187(81.0) 86(41.7)
「体」が関わるもの 504(86.9) 180(89.6) 219(94.8) 197(95.6)
「アレルギー」が関わるもの 283(48.8) 155(77.1) 194(84.0) 161(78.2)
患者数(人) 580 201 231 206

発作誘発要因の分析ができれば,当面の発作を「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」(以下ガイドライン)に沿った対症療法で抑えながら,其々の発作誘発要因に対しての治療を総合的に行っていくことになる.ここでは概略を述べるに留めるが,心理的要因に対しては不安のコントロールを目指した患児および母親への生活指導と育児指導を行い,生理的要因に対しては冷水浴・薄着・運動などの鍛練の励行を推奨し,「心身両面から副腎交感神経系の活性を高める」方向へ生活(育児)習慣を調整するように説明する.アレルギー対策としては抗ロイコトリエン剤とヨウ素レシチン製剤(ヨウレチン)を基礎治療薬として処方し,必要に応じてSCITを実施する.

治療期間は3~5年とし,経過中はガイドラインに沿って重症度と治療ステップの推移を観察し,併せて呼気一酸化窒素濃度(FeNO)の変動と,患児の性格特性の変化を定期的に調査する.FeNOの測定にはBedfont Scientific社の“NObreath”を用い,性格特性の測定には金子書房の「TS式幼児・児童性格診断検査」11)(以下TS式)を用いている.

総合根本療法の治療成績

小児喘息の治療のゴールについて筆者はおおむね次の1から5のように設定しており,治療開始後1~3年で3まで到達することを当面の目標としている.

1.数年以上にわたってぜんそく発作が現れないか,現れたとしても「咳その他の軽い症状(咳喘息程度)」にとどまり,

2.長期管理薬も含めて薬を使わないか簡単な鎮咳剤か気管支拡張剤で治まり,

3.健常児と同じ生活が可能で,

4.気道過敏性は「気道感染を合併しても喘鳴が現れず呼吸機能も悪化しない」程度にまで低下または消失しており,

5.心身両面からの「将来の見通し」を立てた場合に,再燃または再発する恐れが全くないか極めて少ないと判断される.

平成29年8~9月に小児喘息患児34名(男子20名女子14名,初診時年齢4~12歳,調査時平均年齢8.6歳,平均治療期間2年6ヶ月)について,全般改善度,TS式による性格特性,FeNOについて横断的な調査を実施したのでその結果を以下に示す12)

重症度と治療ステップの推移を表2に示す.初診時の重症度は「間欠型14名,軽症持続型5名,中等症持続型4名,重症持続型9名,最重症持続型2名」であったが,調査時には「間欠型31名,軽症持続型2名,中等症持続型1名,重症持続型0名,最重症持続型0名」まで改善していた.

表2 重症度と治療ステップの推移 人数(%)

重症度 間欠型 軽症持続型 中等症持続型 重症持続型 最重症持続型
初診時 14(41.2) 5(14.7) 4(11.8) 9(26.4) 2(5.9)
調査時 31(91.2) 2(5.9) 1(2.9) 0 0
治療ステップ 無治療 1 2 3 4
初診時 1 16(48.5) 6(18.2) 9(27.3) 2(6.0)
調査時 0 32(94.1) 1(2.9) 1(2.9) 0

初診時の治療ステップはN=33で集計

初診時の治療ステップは,無治療であった1名を除いた33名で「ステップ1:16名,ステップ2:6名,ステップ3:9名,ステップ4:2名」であり,調査時は「ステップ1:32名,ステップ2:1名,ステップ3:1名,ステップ4:0名」であった.調査時の間欠型31名のうち8名は1年以上無発作であり,6名が2年以上無発作であった.ICSなどの長期管理薬は17名中15名(88.2%)までが使用中止できていた.

治療ステップ1の患児32名において,FeNOとTS式の結果について検討(多重ロジスティックス回帰分析)したところ,FeNOは「神経質でなく自立的で情緒の安定した」患児ほど有意に低値を示すことが示された(神経質P<0.05,自立的P<0.05,情緒安定P<0.1).

考察

総合根本療法は決して特殊な治療法ではなく,小児喘息治療で通常的に行われている対症療法,鍛錬療法,アレルギー対策に心理療法を追加したものに過ぎない.しかしそれであってもステロイド離脱をも可能にする治療効果を発揮するという事実からは,心因への対応(心理療法)が小児喘息に対する極めて強力な治療手段になり得ることを示しているといえる.

筆者は喘息における心因の位置付けを概ね次のように考えている.

1.心因は気象の変化や各種抗原などと同列の発作誘発要因となって,単独でも発作を誘発し得る.

2.心因は心身相関のメカニズムによって副腎・交感神経系などの生理的システムを最上位から支配して症状に強く影響を与える.

3.発症・増悪・難治化・寛解・治癒などの従来自然経過とみなされていた病勢の変化にまで影響を与える.

4.ステロイドを含む対症療法薬の効果を減弱または無効化して喘息を重症難治化させ得る.

5.適切に実行された心理療法はステロイドに勝る治療効果を発揮しステロイドの減量から離脱を実現させ得る.

そして今回の調査対象である4~12歳前後(思春期前)の小児喘息においては,複雑化した心因を備える成人喘息に用いるような正統的な心理療法は必要とされない.その理由はこの年代の小児喘息の心因は「臆病・未熟・甘え」に基づく「不安・不満・葛藤」などの比較的単純なものが多いからである.従って患児を「凛々しく逞しい」方向に成長させ,「神経質でなく自立的で情緒の安定した自我」を薫育するための育児指導(心理指導)が小児喘息における最も効果的な心理療法になるといえる.

豊島13)も小児喘息を多因子性疾患とみなした「総合治療」を提唱しており,「総合治療とは,患者の心身の成長の回復を通じて喘息の寛解をもたらす治療であり,その意味で,成長発達の回復を治療の目標とする小児医療そのものである」としている.また赤坂ら14)は「小児喘息の心身症群では,感情抑制,欲求不満,疾病逃避,我慢,くよくよしやすい,不安が強く,気分の変化が多い」と述べているが,これらの記述も小児喘息の心理的側面を治療対象と見なしているといえよう.

しかしながらガイドラインにおける小児喘息の心因への取り組みは決して積極的とはいえない.2012年版ガイドラインの「心理社会的要因と心理学的アプローチ」には次のように記載されている.

「GINA(2009)では喘息をPsychosomatic diseaseではないと強調している.ここでは,日本語の心身症が英語(米語)のPsychosomatic diseaseとは異なる概念であることだけを述べて深入りしないが,いずれの概念も現代医学の最先端の医療技術への貢献という点からはやや過去の遺物になりつつある.しかし,一部の心身医学者が劇的な治療効果を上げた医療技術が実際に存在するのも事実である.彼らが名医であったことは確かであるが,数十年前には明確にできなかったScientificな心理技法の使い手でもあったと思われる.そこで,本章ではあくまでEvidence-based Medicineと共存できるScientificな心理学や心理療法を喘息治療に応用するという立場から,喘息に対する心理学的アプローチについて記述する」.2023年版ガイドラインでも心理療法についてはほぼ同様の見解が踏襲されており,筆者はこのガイドラインの見解については残念に思っている.

基礎治療薬としてヨウ素レシチン製剤(ヨウレチン)を使用した理由は同製剤の「IL-4産生抑制,IgE抗体産生抑制,IFN-γ上昇作用」という薬理効果と,図2に示すような喘息の随伴症状としてばしば現れる反復性上気道症状に対しての改善効果15)を期待してのものである.天然成分の化合物という点から保護者の抵抗感も少ないようである.

図2 ヨウ素レシチン使用前後の症状平均点数の推移(文献15より転載)

心理検査にTS式を採用した理由はその利便性と客観性にある.詳細は成書を参照されたいが,本検査は回答時間が20~30分の質問用紙で,解釈に専門知識が必要なく保護者も結果を理解しやすく,継続的な利用で子どもの性格傾向の変化を把握できるという利点を備えている.

FeNOは気道炎症の指標になるバイオマーカーであり,未治療の喘息で上昇しステロイドで低下するためICS増減の指標とされている.ただし日常的な症状のコントロール指標としてのエビデンスは定まっていないため,本稿で報告した重症度の推移と関連付けることはできない.従って今回FeNO関連で報告できることは「心理療法が喘息のバイオマーカーに影響を与える可能性がある」に留まるが,この事実から更なるエビデンスレベルの高い知見を得るための実践が今後の課題になると筆者は考えている.

結語

気管支喘息における心因は小児では全体の40~80%,成人では40~60%に関わっている16).そして病像全体を最も高い位置から支配しており,その影響力はステロイドに匹敵するほどの強さを備えている.心因は喘息を重症難治化させ得るが,反面よく計画された心理療法がステロイドに勝る治療効果を発揮するという事実も今や疑う余地はないと筆者は考えている.

EBMは確かに重要であるが,検証のために情報を絞り込む過程で未解明の重要な情報が振り落とされる可能性がある.フィールドワークにはそのリスクを補完する役割があり,それ故われわれフィールドワーカーには,未解明の重要な情報の検討とそれらに由来するclinical question解明のための常なる努力が求められることになる.

豊島13)がいうように,「薬物による喘息症状の抑制だけに目を奪われ,心理社会的治療介入の時期を失して患児の予後を不良にすることがないよう十分心すべきである」ことを小児喘息治療に関わる者は常に念頭に置くべきであろう.

利益相反に該当する事項:なし

文献
  • 1)  桂 戴作:呼吸器系I 気管支喘息.情動のしくみと心身症―基礎から臨床まで.樋口正元 編,日本ロシュ医薬品部;1974: 145–153.
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