小児耳鼻咽喉科
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近年わが国で導入された新しいワクチンについて
中野 貴司
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2025 年 46 巻 2 号 p. 69-76

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Abstract

ワクチンは,病原体特異的な免疫を付与でき,感染症対策における有用な予防手段である.最近わが国で導入された,いくつかの新しいワクチンについて概説する.具体的には,経鼻弱毒生インフルエンザワクチン,精製Vi多糖体腸チフスワクチン,組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチンの3製剤について紹介する.わが国のインフルエンザワクチンは,不活化HAワクチンが半世紀以上にわたって使われているが,2024年秋から異なるモダリティの経鼻弱毒生ワクチンが加わった.2歳から18歳が接種対象で,年齢にかかわらず,流行シーズン前に1回の接種を行う.海外渡航者など,罹患のリスクが高い者に接種されるワクチンとして腸チフスワクチンとダニ媒介性脳炎ワクチンも登場した.前者は2歳から,後者は1歳から接種が可能である.

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が私たちに及ぼした影響は,多大なものであった.パンデミック中の感染予防策として励行された手指衛生やマスク着用,咳エチケットの効果はもちろんのこと,行動や移動の制限はヒト同士の接触や病原体持ち込みの機会を減らし,大多数の感染症が激減した.

しかしその後,ポストコロナの制限緩和は,それまで抑止されていた感染症の再興をもたらし,その規模はしばしばコロナ以前を大きく上回った.RSウイルスや溶連菌が大きな流行をきたし,特に過去の罹患による免疫が十分でない小児では患者数が多かった.インフルエンザも,2023年から24年シーズンは1年近く続いた長い流行,2024年末はA/H1N1亜型ウイルスの急峻な流行拡大があった.

ポストコロナでは,グローバリゼーションの流れもコロナ以前に戻り,かつ拍車がかかった.特に日本を訪れる外国人は著増し,海外で流行していた耐性百日咳菌や肺炎マイコプラズマの国内流行,麻疹輸入例の増加などはポストコロナのグローバリゼーション再興と無縁ではない.

このような時代背景の中,ワクチンは感染症の病原体特異的な免疫を付与できる予防手段である.最近導入されたいくつかの新しいワクチンについて概説する.

2.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン

1)わが国のインフルエンザワクチン

わが国では,1950年代に不活化全粒子インフルエンザワクチンの製造が開始された.その後,ワクチン抗原をより純度の高いヘマグルチニン(haemagglutinin, HA)タンパク成分とした不活化HAワクチンが1972年に登場し,現在も使用されている(表1).

表1 わが国のインフルエンザワクチンの歴史

これまでのわが国のインフルエンザワクチンの開発経緯や接種対象の推移などについて一覧表にした.

出来事
1957 全粒子(whole virion)ワクチン販売
1962 小中学生に対する接種の勧奨(任意接種)
1972 HAワクチン(同じワクチンの海外での呼称は“split vaccine”)販売
1976 予防接種法改正によりHAワクチンの学童への接種を規定
1977 学童集団接種開始
1987 個人(保護者)の意思に基づいた接種に変更→学童集団接種の接種率低迷
1994 予防接種法改正時にインフルエンザは対象疾病から除外
2001 高齢者に対する接種を予防接種法に位置付け(二類疾病→その後B類疾病と呼称)
2009 「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」(日本環境感染学会)→「医療関係者のためのワクチンガイドライン」
2023 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン承認
2024 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン販売
2024 高用量インフルエンザHAワクチン承認→販売は2026年秋頃の見込み

(筆者作成)

インフルエンザワクチンは,2001年から予防接種法において高齢者を対象とした定期B類接種(当時は「二類」と呼称)に位置付けられた.それ以外の対象者では任意接種の扱いであるが,長年の使用により一般国民に広く浸透した一定の安心感や,関連諸団体の予防啓発の努力によって,小児や医療従事者を含めて比較的普及した.しかし一方で,より有効率の高いワクチンの登場も期待されている.

海外では高齢者などで有効性のエビデンスが集積しつつある高用量不活化ワクチンやアジュバント添加ワクチンも使用され,前者は国内でも2024年12月に薬事承認された.高用量HAワクチンの販売開始は2026年秋頃になる見込みである.

海外で20年以上にわたって使用されている経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(販売名:フルミスト点鼻液)は,わが国においては2023年3月に薬事承認され,2024年秋から販売が開始された(表1).2歳~18歳が接種対象で,成人や高齢者と比べて過去の感染機会が少なかった小児に対する免疫付与という観点からは理にかなっている.注射を嫌がる低年齢児や,局所副反応の既往などで接種を見合わせていた者にとっては,代替ワクチンができたという恩恵もある.本ワクチンについて簡単に解説する.

2)経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの特性

①モダリティと接種経路

呼称のとおり生ワクチンで,弱毒化された生インフルエンザウイルスがワクチンの成分である.また,注射製剤ではなく経鼻噴霧で投与されるワクチンである.本剤による予防のコンセプトは,自然感染と同様の経路,すなわち経気道的に弱毒ワクチン株を接種し,その免疫効果を期待するものである.自然感染を模倣することで,血液中のIgG抗体(液性免疫)や細胞性免疫と気道粘膜上の分泌型IgA抗体(局所粘膜免疫)の誘導が期待される.

②小児のインフルエンザ予防

わが国においてインフルエンザに関連した超過死亡は多数と推定されているが,その大半は高齢者である.一方で,小児においてもインフルエンザ脳症に代表される重篤な合併症の報告は多く,インフルエンザによる入院患者の大部分を高齢者と小児が占めている.したがって,高齢者のみならず小児のインフルエンザ予防は,医学的にも社会的にも重要な課題である.

本剤のわが国における投与対象年齢は2歳~18歳である.年齢にかかわらず,流行シーズン前に1回の投与を行う.

③低温馴化ワクチン株

ワクチンの成分として用いられるのは,①低温馴化(野生株の増殖しにくい低温で効率良く増殖する),②温度感受性(B型株は37℃,A型株は39℃で増殖しにくくなる),③弱毒化(ヒトのインフルエンザ発症モデルであるフェレットでインフルエンザ様症状を引き起こさない)の3つの特徴を有するリアソータントウイルス株である1).これらの特徴により,本剤中の弱毒生インフルエンザウイルスワクチン株は鼻咽頭部で増殖し,免疫を付与する

④価数とワクチン株の選定

米国で2003年に初めて承認され,当初は3価のワクチン(A型2株:A/H1N1亜型株およびA/H3N2亜型株,B型1株:B/Yamagata系統株またはB/Victoria系統株)であった.その後,B型1株が追加され,2023年までは4価のワクチン(A型2株:A/H1N1亜型株およびA/H3N2亜型株,B型2株:B/Yamagata系統株およびB/Victoria系統株)が使用された.

ところが,COVID-19パンデミックの中でインフルエンザウイルスの流行疫学に変化が生じた.B/Yamagata系統株は長年にわたって世界中で検出されておらず,2023年後半以降WHOはインフルエンザワクチンの成分からB/Yamagata系統株を削除することが望ましいとの見解を発信した.これを受けて,不活化ワクチン/生ワクチンともに,再度4価から3価のワクチンへの変更が進んだ.

わが国において本剤は,2024年秋の販売当初から3価のワクチンが使用されている.

また,本剤は,WHOの推奨を参照して製造時に決定された株を用いたグローバルな製剤が,わが国でも承認を受けたうえで使用される.わが国の不活化HAワクチンは,WHO推奨株をもとに,厚労省が国内で使用する株を選定するので,シーズンごとに選定された製造株は,本剤とHAワクチンとで異なる可能性がある.2025–26シーズン用の両製剤に用いられるワクチン株を表2に示した.

表2 インフルエンザワクチンの製造株(2025–26シーズン)

2025–26シーズン用の経鼻弱毒生ワクチンと不活化HAワクチンに用いられる製造株を示した.A/H1N1亜型ウイルスが両ワクチンで異なっている.

製剤名 A/H1N1亜型ウイルス A/H3N2亜型ウイルス B型ウイルス
経鼻弱毒生インフルエンザワクチン ノルウェー/31694/2022 パース/722/2024 オーストリア/1359417/2021
インフルエンザHAワクチン ビクトリア/4897/2022 パース/722/2024 オーストリア/1359417/2021

(各薬剤の電子添文より筆者作成)

3)有効性と安全性1)

①有効性

経鼻弱毒生ワクチンは,2歳~18歳の日本人小児を対象とした臨床試験の結果,インフルエンザに対する発症予防効果が示された.

有効性の主要評価項目は「抗原性を問わないすべての分離株によるインフルエンザ発症割合」であった.インフルエンザ発症調査期間中にインフルエンザ様症状を発症し,抗原性を問わないすべての分離株によるものと検査で同定されたインフルエンザ発症割合とした.ただし,接種14日以内に発症したものを除いた.

主要評価項目については,プラセボ群に対する相対リスク減少率(100×[1−本剤群のインフルエンザ発症割合/プラセボ群のインフルエンザ発症割合])およびその正規近似に基づく95%信頼区間を算出した.相対リスク減少率の95%信頼区間の下限が0を上回る場合,本剤の有効性が確認されたものとした.

インフルエンザ発症割合は,本剤群で25.5%(152/595例),プラセボ群で35.9%(104/290例)であり,本剤群のプラセボ群に対する相対リスク減少率は28.8%(95%信頼区間:12.5~42.0)であった.95%信頼区間の下限は0を上回り,プラセボに対する本剤の優越性が検証された(表3).なお,本試験が実施されたシーズンは,A/H3N2亜型株が流行した.

表3 抗原性を問わないすべての分離株によるインフルエンザ発症割合

インフルエンザ発症割合は,本剤群で25.5%(152/595例),プラセボ群で35.9%(104/290例)であり,本剤群のプラセボ群に対する相対リスク減少率は28.8%(95%信頼区間:12.5~42.0)であった.プラセボに対する本剤の優越性が検証された.なお,本試験が実施されたシーズンはA/H3N2亜型株が流行した.

発症被験者数(%) 相対リスク減少率a(%)
(95%信頼区間b
本剤群(n=595) プラセボ群(n=290)
すべての分離株 152(25.5) 104(35.9) 28.8(12.5~42.0)
 A/H1N1 2(0.3) 2(0.7) 51.3(−244.3~93.1)
 A/H3N2 127(21.3) 86(29.7) 28.0(9.0~43.1)
 B/Yamagata 16(2.7) 9(3.1) 13.4(−93.7~61.2)
 B/Victoria 4(0.7) 3(1.0) 35.0(−188.5~85.4)
 亜型・系統不明 5(0.8) 4(1.4)

複数回発症した被験者については初発のみを集計した

1回の発症で複数の亜型・系統が陽性となった場合,すべての亜型・系統に集計した

治験薬接種14日以内に発症したものを除く

a:100×(1−本剤群のインフルエンザ発症割合/プラセボ群のインフルエンザ発症割合)

b:正規近似に基づく95%信頼区間

(文献1)より)

②安全性

安全性の評価項目は,治験薬接種後から治験薬接種14日後までに発現した特定有害事象,治験薬接種後から接種28日後までに発現した有害事象(特定有害事象を除く),同意取得後からインフルエンザ発症調査終了時までに発現した重篤な有害事象とした.有害事象および副反応発現率は,本剤群とプラセボ群で顕著な群間差は認められなかった.

治験薬と因果関係がありと判定された特定有害事象の発現率は,本剤群67.6%(411/608例),プラセボ群63.6%(192/302例)であり,主な治験薬との因果関係がありと判定された特定有害事象(いずれかの群で発現率10%以上)は,鼻汁/鼻閉〔本剤群59.2%(360/608例),プラセボ群52.6%(159/302例),以下同順〕,咳嗽〔27.8%(169/608例),36.8%(111/302例)〕,咽頭痛〔17.9%(109/608例),17.2%(52/302例)〕,頭痛〔11.2%(68/608例),10.6%(32/302例)〕であった(表4).

表4 特定有害事象(治験薬との因果関係あり)(安全性解析対象集団)

本剤群とプラセボ群で,治験薬との因果関係ありとされた特定有害事象の発現率に,顕著な群間差は認められなかった.

項目 本剤群(n=608) プラセボ群(n=302)
特定有害事象 全体 411(67.6) 192(63.6)
 38.0℃以上の発熱 36(5.9) 9(3.0)
 鼻汁/鼻閉 360(59.2) 159(52.6)
 咽頭痛 109(17.9) 52(17.2)
 咳嗽 169(27.8) 111(36.8)
 頭痛 68(11.2) 32(10.6)
 全身性筋肉痛 11(1.8) 2(0.7)
 活動性低下(嗜眠)又は疲労/脱力 40(6.6) 17(5.6)
 食欲減退 33(5.4) 18(6.0)

発現例数(%)

(文献1)より)

4)実際の接種に際して

①接種不適当者

経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの接種を受けることが適当でない者は,他の生ワクチンと同様に表5に示す者である.

表5 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの接種不適当者

本剤の接種不適当者は,他の生ワクチンと同様である.

・明らかな発熱を呈している者
・重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
・本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
・明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者,および免疫抑制をきたす治療を受けている者
・妊娠していることが明らかな者
・上記に掲げる者のほか,予防接種を行うことが不適当な状態にある者

(文献1)より)

②接種要注意者

経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの接種に際して注意を有する者は,他のワクチンと同様に基礎疾患や既往歴を有する者が該当する.これらの者に対しては,予診などの際に必要な情報を聞き取り,十分な説明と同意に基づいて接種の可否を判断する.

本剤は安定剤として精製ゼラチンを含有している.ゼラチン含有製剤の接種やゼラチン含有食品の摂取によりアレルギー症状をきたした既往がある者に対しては,問診を十分に行い,接種した場合は接種後の観察を十分に行う.

③弱毒ワクチン株の排出

本剤の成分は弱毒生インフルエンザウイルスであり,接種局所の呼吸器粘膜で増殖することで個体に免疫を付与する.したがって,呼吸器粘膜からは弱毒ワクチン株の排出が起こり得る.

弱毒ワクチン株は元々病原性を有するものではないが,周囲に重度の免疫不全者がいる場合などは,接種後1~2週間は密接な接触を可能な限り避けるなど必要な措置を講じる.

すでに本剤の長い使用経験がある海外諸国,たとえば英国では「弱毒ワクチン株の水平伝播は理論上起こり得るが,重篤な疾患を発症した報告は無い.被接種者周囲の重度の免疫不全者に対しては,他の感染症と同様の一般的な注意は考慮される.」とUKHSAのサイトで見解が示されている2)

また,本剤の接種を受けた者が,鼻咽頭拭い液などを検体としてインフルエンザ迅速診断検査を受けた場合,接種後1週間程度はインフルエンザ陽性と判定される場合がある.

④併用注意薬剤

抗インフルエンザウイルス薬は,ワクチンウイルスの増殖を抑制し,本剤の効果が減弱する可能性がある.

サリチル酸系薬剤やジクロフェナクナトリウム,メフェナム酸は,インフルエンザ罹患時に投与するとライ症候群やインフルエンザ脳症重症化との関連性を示す報告があるので,弱毒化インフルエンザウイルスを成分とする本剤では併用に注意する.

3.腸チフスワクチン

1)疾患概要と疫学

腸チフスは,チフス菌(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi)による全身性感染症であり,急性胃腸炎が主症状の一般の非チフス性サルモネラ感染症とは区別される.チフス菌はヒトのみが自然宿主で,ヒトの糞便で汚染された食物や水を介して疾患が媒介される.

潜伏期間は10~14日で,発熱で発症する.バラ疹(発疹),脾腫,比較的徐脈は3主徴とされる.40℃に及ぶ稽留熱が持続し,下痢または便秘を呈する.重症では意識障害を合併する.感受性のある抗菌薬は有効であるが,適切な治療が行われないと,腸出血や腸穿孔の合併症を起こす.回復後,一部の患者は胆囊などに長期保菌する場合がある.

わが国の患者数は衛生水準の向上とともに激減したが,世界では低・中所得国を中心に蔓延している.高所得国での発生は散発的で,多くは流行地域への渡航者による輸入事例である.日本では近年,年間30例前後の発生で推移し,70~90%程度が輸入事例である.しかし昨今のグローバル化に伴い,日本でも海外渡航歴のない患者の増加や国内での集団発生が報告され,今後の発生動向に注意が必要である.

1999年4月に施行された感染症法では2類感染症に分類されていたが,2007年4月施行の法改正により類型の見直しで3類感染症に移行した.患者,無症状病原体保有者(保菌者),および死亡者(死亡疑い者を含む)を診断した医師は,直ちに最寄りの保健所を通じて都道府県知事への届出が義務付けられている.

2)精製Vi多糖体腸チフスワクチン

①概要

わが国では,精製Vi多糖体腸チフスワクチン(販売名:タイフィムブイアイ注シリンジ)が2024年に薬事承認,2025年6月30日から販売が開始された.本剤の組成を表6に示す3).チフス菌を培養し,ホルムアルデヒドで処理した後,単離精製したVi多糖体および添加剤を混合して製剤化したワクチンである.

表6 精製Vi多糖体腸チフスワクチンの組成

本剤の組成を示した.チフス菌を培養し,ホルムアルデヒドで処理した後,単離精製したVi多糖体および添加剤を混合して製剤化したワクチンである.

成分 1回投与量(0.5 mL)中の分量
有効成分 精製チフス菌Vi多糖体 25 μg
添加剤 フェノール 1.1 mg
塩化ナトリウム 4.15 mg
リン酸水素二ナトリウム二水和物 0.065 mg
リン酸二水素ナトリウム水和物 0.023 mg
塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量

(文献3)より)

Vi莢膜多糖抗原に対する抗体を誘導することで,腸チフスの発症予防が期待できる.チフス菌以外のパラチフスA菌およびB菌,または非チフス性サルモネラに起因する感染症を予防する効果は期待できない.

②効果と副反応3)

2歳以上の健康な日本人被験者200例を対象として免疫原性が検討された.接種28日後の抗体陽転率(抗Vi抗体価が接種前の時点と比較し4倍以上の上昇を示した被験者の割合)は,92.0%(95%信頼区間;87.3,95.4)であった.

副反応については,本剤接種後7日間の特定注射部位反応および特定全身反応は表7のとおりであった.収集された事象の重症度は,ほとんどが軽度であった.

表7 接種後7日間における特定注射部位反応及び特定全身反応(安全性解析対象集団)

本剤接種後7日間の特定注射部位反応および特定全身反応を,年齢群別を含めて示した.

18歳以上(N=188) 12~17歳(N=7) 2~11歳(N=5) 全体集団(N=200)
n(%) n(%) n(%) n(%)
特定注射部位反応 全体 139(73.9) 6(85.7) 3(60.0) 148(74.0)
注射部位疼痛 139(73.9) 6(85.7) 3(60.0) 148(74.0)
注射部位紅斑 0 0 2(40.0) 2(1.0)
注射部位腫脹 1(0.5) 0 0 1(0.5)
特定全身反応 全体 104(55.3) 4(57.1) 2(40.0) 110(55.0)
発熱* 2(1.1) 0 1(20.0) 3(1.5)
頭痛 14(7.4) 0 0 14(7.0)
倦怠感 23(12.2) 0 0 23(11.5)
筋肉痛 93(49.5) 4(57.1) 1(20.0) 98(49.0)

N:安全性解析対象集団,n:発現例数

* 37.5℃以上を発熱と判定する.

(文献3)より)

③接種の実際

海外渡航者など,腸チフス罹患の可能性が高いハイリスク者に接種が推奨される.1回0.5 mLを,通常は筋肉内注射で接種する.皮下注射も可能である.

通常は2歳以上の者が接種対象である.2歳未満の小児を対象とした有効性および安全性を指標とした国内臨床試験は実施していない.また,多糖体ワクチンであり,2歳未満の年少児においては免疫機構が未成熟であるため十分な免疫を誘導できない可能性がある.

4.ダニ媒介性脳炎ワクチン

1)疾患概要と疫学

ダニ媒介性脳炎ウイルスは,極東亜型,シベリア亜型,ヨーロッパ亜型に分類される.ヨーロッパ亜型は中欧を中心とした欧州諸国,シベリア亜型はシベリアから北欧,極東亜型は日本から中国,モンゴル,シベリアに分布する.

感染経路は,ウイルスを保有したマダニに咬まれることによる.また,ダニ媒介性脳炎ウイルスに感染したヤギ,ウシ,ヒツジなどの反芻獣の生乳および乳製品の摂取による経口感染も欧州から報告がある.ヒトからヒトへの直接の感染はない.

不顕性感染が多く,感染しても70%~90%の者は無症状である.潜伏期間は2日~28日で,発熱,頭痛などで発症し髄膜脳炎へ進行する.意識障害,けいれん,麻痺,知覚障害などを呈する.一般に極東亜型は致命率が高く,回復後も重篤な神経症状を残すことがしばしばある.病原体診断は,血液や髄液からのウイルス分離,ウイルス遺伝子の検出,血清学的検査などによる.抗ウイルス薬などの特異的な治療法は無い.

日本では1993年に北海道南部で患者が初めて発生した.その後も国内の患者は北海道内のみからの報告だが,島根県に生息するアカネズミからダニ媒介性脳炎ウイルスが検出されていること,また,ダニ媒介性脳炎ウイルスに対する抗体を保有するげっ歯類とマダニ類が日本全国で確認されていることから,北海道だけでなく,日本国内のマダニ類が生息・活動する地域においてはヒトへの感染が起きるリスクは存在する4).海外での感染事例としては,2001年にオーストリアで日本人渡航者が感染して死亡するという事例が報告された.

マダニの活動が活発になるのは,3~10月頃で,流行地の野外で活動する機会の多い者は罹患のリスクが高い.一般的に,マダニは,沢に沿った斜面や森林の笹原,牧草地などに生息する.草の茂った場所などマダニの生息する場所に入る場合には,長袖,長ズボンを着用し,サンダルのような肌を露出する履物は避けるなど,マダニに刺されない予防措置を講じることが大切である.

感染症法では4類感染症に分類される.患者,無症状病原体保有者,および死亡者(死亡疑い者を含む)を診断した医師は,直ちに最寄りの保健所を通じて都道府県知事への届出が義務付けられている.

2)組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン

①概要

海外では流行国を中心に以前からワクチンが流通していたが,わが国でも2024年3月に組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン(販売名:タイコバック®水性懸濁筋注0.5 mL/小児用水性懸濁筋注0.25 mL)が承認され,同年9月から販売が開始された.

ダニ媒介性脳炎ウイルスをSPF(specific pathogen free)発育鶏卵から採取したニワトリ胚初代培養細胞で増殖させ,得られたウイルスをホルムアルデヒドで不活化した後,精製し,安定剤及びアジュバント(水酸化アルミニウム懸濁液)を加えたものである.16歳以上に使用する成人用製剤と1~15歳に使用する小児用製剤で1回接種量が異なる(それぞれ0.5 mLと0.25 mL)が,それらの組成を表8に示した5)

表8 組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチンの組成

本剤の組成を示した.ニワトリ胚初代培養細胞でダニ媒介性脳炎ウイルス増殖させ,不活化した後,精製し,安定剤及びアジュバント(水酸化アルミニウム懸濁液)を加えたものである.16歳以上に使用する成人用製剤と1~15歳に使用する小児用製剤がある.

成分 タイコバック水性懸濁筋注(0.5 mL)中の含量 タイコバック小児用水性懸濁筋注(0.25 mL)中の含量
有効成分 不活化ダニ媒介性脳炎ウイルス 2.4 μg 1.19 μg
添加剤 人血清アルブミン 0.5 mg 0.25 mg
リン酸水素二ナトリウム二水和物 0.22 mg 0.11 mg
リン酸二水素カリウム 0.045 mg 0.0225 mg
塩化ナトリウム 3.45 mg 1.725 mg
水酸化アルミニウム懸濁液 0.35 mg(アルミニウム換算) 0.17 mg(アルミニウム換算)
水酸化ナトリウム 適量 適量

(文献5)より)

ダニ媒介性脳炎ウイルス以外のダニ媒介感染症,たとえば重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome, SFTS),日本紅斑熱,ツツガムシ病などを予防する効果は期待できない

②効果と副反応5)

成人(16歳以上)99例を対象とした,3回目を接種して1か月後の抗体陽性率の検討では,中和抗体陽性率は98.0%(97例/99例)で,95%信頼区間は(92.9, 99.8)であった.

16歳未満の小児65例に対する,3回目を接種して1か月後の抗体陽性率の検討では,中和抗体陽性率は100.0%(65例/65例)で,95%信頼区間は(94.5, 100.0)であった.

安全性については,16歳以上の成人における主な局所反応は注射部位疼痛であり,それぞれ1回目接種後59例(59.0%),2回目接種後44例(44.0%),3回目接種後36例(36.4%)が報告された.全ての局所反応の重症度は軽度又は中等度で,持続期間は1~2日(中央値)であった.全身性反応については,筋肉痛,疲労,頭痛,発熱などが報告されたが,多くは軽度または中等度であった.

16歳未満の小児における主な局所反応は注射部位疼痛で,それぞれ1回目接種後28例(43.1%),2回目接種後17例(26.2%),3回目接種後23例(35.4%)が報告された.全ての局所反応の重症度は軽度又は中等度であった.全身性反応については,頭痛,疲労,下痢,発熱などが報告された.

③接種の実際

筋肉内注射のワクチンで,小児用製剤と成人用製剤で1回接種量が異なる(表9).1~15歳は1回0.25 mL,16歳以上は1回0.5 mLを接種する.1歳未満を対象とした臨床試験は実施されていない.

表9 組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチンの接種方法

小児用製剤と成人用製剤で1回接種量が異なる.初回免疫として,3回の接種を行う.免疫の賦与を急ぐ場合には,2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる.

種類 対象年齢 用法と用量 初回免疫(接種回数と間隔) 追加免疫(接種回数と間隔)
タイコバック小児用水性懸濁筋注 1~15歳 1回0.25 mLを筋注 【通常】
①(1~3か月)②(5~12か月)③
【免疫の賦与を急ぐ場合】
①(2週間)②(5~12か月)③
【4回目接種】
③(3年)④
【5回目接種以降】
・1~59歳:5年ごと
・60歳以上:3年ごと
タイコバック水性懸濁筋注 16歳以上 1回0.5 mLを筋注

(文献5)より)

初回免疫として,3回の接種を行う.2回目接種は,1回目接種の1~3か月後,3回目接種は,2回目接種の5~12か月後に接種する.免疫の賦与を急ぐ場合には,2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる(表9).

必要に応じて,3回目接種の3年後に追加免疫を行い,以降は1~59歳では5年ごと,60歳以上では3年ごとに追加免疫を行う.

利益相反に該当する事項:第一三共(株),サノフィ(株),Meiji Seikaファルマ(株),田辺三菱製薬(株),モデルナ・ジャパン(株),KMバイオロジクス(株)から講演料などの受領がある.

文献
 
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