小児耳鼻咽喉科
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原著
保育施設の食事の場における窒息事故予防策に関する調査
坂井田 麻祐子
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2025 年 46 巻 2 号 p. 77-82

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Abstract

小児の食べ物による窒息死亡事故は後を絶たず,特に保育施設では予防対策が望まれる.三重県津市内全公立保育園・こども園職員を対象に,保育現場で窒息事故予防に必要な業務内容,現場の問題点,求める研修内容について調査し113名から回答を得た.

窒息事故発生時,自信を持って実施出来る手技は背部叩打法58.4%,ハイムリック法16.8%,心肺蘇生法24.8%であった.8割以上が手技習得機会を必要と考え,40.7%が全職員個別の指導を,53.1%が年1回の頻度で希望した.

給食時の事故予防対策は複数職員での見守り(83.2%),個々の食べ方に合った介助(85.8%),個々に合った食事提供(78.8%)等きめ細く実施していた.一方で業務過多や保育士数不足,アレルギー児への対応等の理由で5割以上が事故予防の実施が困難であった.

保育施設における窒息事故予防には,保育士の業務環境改善と十分な実技研修が肝要と考える.

Translated Abstract

Fatal suffocation accidents at mealtimes continuously occur in children, thus making it necessary, especially for child-rearing facilities, to implement preventive measures. We conducted an investigation of the workers at all public nursery schools and child centers in Tsu City, Mie Prefecture, regarding their necessary work, problems, and training to prevent suffocation accidents at mealtimes in child-rearing workplace, and obtained answers from 113 workers.

When asked about procedures they can perform with confidence during a suffocation accident, 58.4% of the subjects mentioned the back blow method, 16.8% mentioned the Heimlich maneuver, and 24.8% mentioned cardiopulmonary resuscitation. Over 80% considered that opportunities to learn such procedures would be necessary, while 40.7% hoped for individualized coaching for all workers, and 53.1% hoped to receive such training annually.

As measures to prevent accidents during lunchtime, they reported paying careful attention to the following factors: observation by multiple workers (83.2%); support appropriate for each child’s eating style (85.8%); and serving methods tailored to individual children (78.8%). However, more than 50% of those workers could not prevent such accidents due to excessive workloads, an insufficient number of nursery workers, and the challenges of handling of children with allergies.

Improving the work environment of nursery workers and providing them with sufficient practical training are thus considered to be important for preventing suffocation accidents at mealtimes in child-rearing facilities.

はじめに

小児の食べ物による窒息事故は毎年一定数発生し続けており,死亡例が後を絶たない1,2).特に事故発生頻度の高い乳幼児が利用する保育施設では,保育中の事故が頻繁に報道されている.過去に同様の事故が起こったにもかかわらず繰り返されており,保育施設の食事の場における事故予防対策が望まれる.

目的

保育現場において窒息事故予防に必要な業務内容,現場の問題点,求める研修内容について調査すること.

対象

三重県津市内公立保育園19園,認定こども園6園,児童発達支援事業所1か所の計26園の職員

方法

2023年5月三重県子育て推進課より対象園全園にメールにてGoogleForm形式のアンケート(表1)を配布し,各園3名以上の回答を依頼し集計した.回答は無記名とした.

表1 アンケート内容

設問1:日常的に窒息事故を予防するには何が大切だと思いますか?(複数回答可)

・子ども達が食べている時は,複数の職員で分担してしっかり見守る

・個々の食べ方を把握し,食べ方に合った声かけや介助を行う

・詰まりにくいように個々に合った大きさの食べ物を提供する

・詰まりやすい食材(ミニトマト,ぶどう,団子など)はメニューに出さない

・園での栽培物は窒息のリスクの高いミニトマトなどを選択しない

・定期的に救急講習を行う

・事故発生時のマニュアルを作る

・常に「自分がこどもを助ける」という責任感や危機意識を持つ

設問2:設問1の選択肢のうち,実際今の時点で出来ていることを選んでください.(複数回答可)
設問3:事故予防対策を行う上で,現在の保育体制で困っていることはありますか?(複数回答可)

・1クラス当たりの保育士の数が少なく,十分見守りが出来ない(保育士配置基準は満たしているとする)

・給食時の業務(配膳・食事介助・片付け・着替え・排泄など)が同時進行する

・看護師が園にいない

・給食時,アレルギー対応児に職員が取られると他の児の見守りが手薄になる

・保育室に緊急ボタンや内線がないので,万が一の時に助けを呼びにくい

・職員同士で話し合う時間が無い

・職員の学習機会,研修機会が無い

設問4:子どもが食べ物を詰まらせて窒息しそうな状態の時,自信を持って出来る行為を選んでください.(複数回答可)

・咳をさせる

・助けを呼ぶ

・救急車を要請する

・背部叩打法をする

・ハイムリック法をする

・意識がなくなった場合は心肺蘇生法をする

・様子を観察する

設問5:園での窒息事故を防ぐためには,職員の皆様の知識と技術が必要です.自信を持って対処を行うためには,何が必要だと思いますか?(複数回答可)

・気道異物について詳しく勉強する機会

・背部叩打法やハイムリック法など気道異物除去法を習得する機会

・心肺蘇生法を習得する機会

・職員間の意思疎通や連携

・園内の事故対策マニュアル作成

設問6:気道異物除去法や心肺蘇生法について,どのような研修を希望しますか?最も希望に近いものを選んでください.

・スライド(動画を含む)などを用いた講義形式

・指導者の手技実演を見て学ぶ形式

・職員の代表が手技を体験して学ぶ形式

・職員全員が個別で手技を体験して学ぶ形式

・いずれでもない

設問7:設問6のような研修はどのくらいの頻度での実施を希望しますか?

・一度で良い

・2年に1回

・1年に1回

・半年に1回

・半年に1回以上

結果

113名から回答を得た.各園3名以上に回答を依頼したが,各施設の回答人数を具体的に把握できず,回答率は示せなかった.

設問1,2を併せて図1に示す.日常的に窒息事故を予防するために大切なこととして,「食事時は複数の職員で分担して見守る」「個々の食べ方に合った介助を行う」「個々に合った大きさの食べ物を提供する」を8割前後の職員が選択し,かつ実際に実施出来ていると回答した.一方で「定期的に救急講習を行う」「『自分が子どもを救う』という責任感や危機意識を持つ」「事故発生時のマニュアルを作る」の3項目については,大切であると回答した職員に比し,実際に実施出来ていると回答した職員が少なく,理想と現実に乖離が見られた.

図1 設問1:日常的に窒息事故を予防するには何が大切だと思いますか?(複数回答可)設問2:設問1のうち,実際今の時点で出来ていることを選んでください.(複数回答可)

設問3で,事故予防対策を行う上で現在の保育体制で困っていることを問うと,「給食時に複数の業務が同時進行する(68.1%)」「保育士数が少なく,十分見守りが出来ない(64.6%)」「アレルギー児の対応で他の児の見守りが手薄になる(50.4%)」等で困っていると回答した(図2).

図2 設問3:事故予防対策を行う上で,現在の保育体制で困っていることはありますか?(複数回答可)

設問4で,子どもが食べ物を詰まらせて窒息しそうな状態の時,自信を持って出来る行為について「助けを呼ぶ」87.6%,「背部叩打法をする」58.4%,「救急車を要請する」57.5%の順で高率であり,「咳をさせる」「意識がなくなった場合は心肺蘇生法をする」は20%台,「ハイムリック法をする」は16.8%と低かった(図3).

図3 設問4:子どもが食べ物を詰まらせて窒息しそうな状態の時,自信を持って出来る行為を選んでください.(複数回答可)

設問5で,事故発生時に職員が自信を持って対処するために必要なこととして,全ての項目について6割以上の回答を得た.特に背部叩打法,ハイムリック法,心肺蘇生法など手技の習得機会が必要との回答が多かった(図4).

図4 設問5:園での窒息事故を防ぐためには,皆様の知識と技術が必要です.自信を持って対処を行うためには,何が必要だと思いますか?(複数回答可)

設問6で,手技の研修は「職員全員が個別で手技を体験して学ぶ形式」を40.7%,「指導者の手技実演を見て学ぶ形式」を37.2%が希望した(図5).研修頻度は53.1%が年1回,34.5%が半年に1回を希望した(図6).

図5 設問6:気道異物除去法や心肺蘇生法について,どのような研修を希望しますか?最も希望に近いものを選んでください.
図6 設問7:設問6のような研修はどのくらいの頻度での実施を希望しますか?

考察

保育施設における窒息事故の予防には,個々の保育職員が知識と対処法を身につけ,各園で対策を実施することが望ましい.本調査では対象園職員における現況について知ることが出来た.調査の際,各施設の回答人数を把握出来なかったため,回答者が一部の施設に偏っている可能性,及び本内容に積極的に関与している回答者が多い可能性があり,バイアスがかかっている懸念があることを付記する.

設問1,2の結果から,日常的に窒息事故を予防するために食事の際は複数の職員での見守りを行い,個々に合った大きさの食べ物を提供し,個々の食べ方に合った食事介助を実施しているという回答が多く,大変きめ細かい保育を実施している様子が伺えた.乳幼児の窒息事故は食物によるものが多く3),保育施設においては給食時の対応が最も重要となる.年齢や個人によって咀嚼嚥下機能が異なるため,同じ食材でも硬さや大きさを変え,食べさせ方にも個別の対応が求められる4,5)

しかしながら設問3のように,給食時には配膳,片付け,着替えなど,食事介助以外の業務が同時進行する.1人の保育士が同時に複数の園児に対応すると事故発生のリスクが上がると危惧される.

愛知保育団体連絡協議会が中心となって立ち上げた「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」が令和5(2023)年に実施した,全国の保育者・保育団体へのアンケート調査(N=3589)では,82%が不適切保育の原因を「人手不足」と認識,94%が保育士配置基準の見直しが必要と考えており,調査結果を意見書としてこども家庭庁へ提出している6).こども家庭庁は従来保育士1人当たり3歳児20名,4・5歳児30名であった配置基準を,令和6(2024)年度より3歳児15名,4・5歳児25名に変更した7).安全な保育は事故予防に繋がることが予測され,そのためには十分な保育職員数が必要と考える.今後国や自治体により適正な配置基準が設定され,保育職員の業務環境が改善することが期待される.

保育施設で窒息事故が発生した場合は,保育職員の適切な対処が園児の救命に繋がる.現在日本蘇生協議会およびアメリカ心臓協会で推奨されている手順は以下の如くである.まず傷病者に咳を促し,異物を自力で喀出させる.咽喉頭部に異物が嵌頓し発声・咳嗽が困難な場合は背部叩打法を実施,除去されない場合はハイムリック法を施行する.窒息状態が続き患児が意識消失したら直ちに心肺蘇生術を施行する8,9)

救急車の要請は必要であるが,到着までに全国平均で約10.3分を要する10).気道閉塞時間が5分を超過すると神経学的転帰が不良となる可能性があり,身近にいる者による迅速な異物除去が生命予後に大きく影響する11).個々の保育職員が自信を持って事故時に対応出来る知識と手技を身につけておくことが望ましい.

本調査で,保育職員は窒息事故時の対応方法のうち自信を持って出来る行為として,助けや救急車の要請,背部叩打法は6割近くの回答があったが,ハイムリック法や心肺蘇生法については2割前後の回答であった.また自信を持って事故時に対処するためには,これらの手技の習得機会が必要だとする回答割合が高かった.山田12)は,保育士は乳幼児の一次救命処置について自信がなく,その原因として保育士の要望に合った教育が行われていないことやAEDの設置不足を指摘している.我々は研修をただ実施するだけではなく,保育職員の求める研修内容を認識し教育・指導に当たる必要がある.

設問6では40.7%が全職員個別で手技を体験して学ぶ研修を,37.2%が指導者の手技実演を見て学ぶ研修を選択しており,両者はほぼ同率であった.著者は手技習得には蘇生訓練人形を用いた研修や実践的な訓練が有用と考えており,本調査の対象者が個別での手技体験を希望しない理由は不明である.今後保育職員の希望する研修内容をより詳細に調査すると共に,職員の手技習得状況とそれに伴う自信の獲得程度について検証する必要があると考える.

総務省による保育施設133施設に対する調査では,気道異物除去の実技講習に参加している施設は63施設(47.4%),心肺蘇生法では97施設(72.9%)であった.気道異物除去の講習については,51施設(38.3%)において平成26年から29年度までの3年間,参加した保育従事者が一人もいなかった.その理由の最多が「講習がどこで開催されているか知らない(23施設)」であり,「気道内異物除去の実技講習を受講することについて考えたこともなかった(7施設)」とする施設もあった13).本調査では定期的に救急講習を実施出来ているとの回答が69.9%であった.著者が2016年に三重県内国公立幼稚園長186名を対象として実施した調査では,気道異物研修実施率は54.2%14),2019年の三重県津市内全保育園・こども園53施設に対する調査では,81.1%15)であった.前述の総務省の調査と比較し三重県や津市での研修実施率は高率であり,これまでの啓発活動の効果とも考えられる.一方で,研修実施率と保育施設における事故減少率との関係性は不明である.今後各園で発生した気道異物事故例やヒヤリ・ハット事例を収集する仕組みを作り,研修実施の効果が検証されると理想的である.

保育施設における窒息死亡事故を限りなく0に近づけるためには,国や自治体により保育職員の業務環境改善が望まれる.加えて,保育職員の要望に添った研修の実施,研修効果の検証を行い,今まで以上に事故予防に貢献できる啓発活動を目指して行きたい.

利益相反に該当する事項:なし

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