小児耳鼻咽喉科
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原著
軟骨無形成症児における聴覚評価
江﨑 友子
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2025 年 46 巻 2 号 p. 83-88

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Abstract

軟骨無形成症は,四肢短縮型低身長をきたす代表的な疾患で四肢短縮,大頭症,中顔面低形成,および正常な認知機能が特徴的である.この疾患は軟骨内骨化の成長に影響を与えるFGFR3遺伝子の変異によって引き起こされる.耳鼻咽喉科領域では,閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive sleep apnea: OSA)の他,滲出性中耳炎(Otitis media with effusion: OME)の合併が多い.聴力に影響している場合も軽度から中等度以内の難聴の場合,保護者や医療者が難聴に気付きにくい.症状が明らかでない場合も1歳を目処に聴力検査を含めた耳鼻科受診ができるよう,乳児期から関わる小児科,脳神経外科,小児整形外科へ周知する必要がある.また中耳炎以外の難聴例も認めるため,左右別の自覚的聴力検査ができるまで経過を追う必要がある.

Translated Abstract

Achondroplasia is the most common skeletal dysplasia that causes short stature and it is characterized by rhizomelia, macrocephaly, midface hypoplasia, and normal cognition. This condition is caused by a mutation in the FGFR3 gene, affecting endochondral bone growth. In the field of otolaryngology, in addition to obstructive sleep apnea, it is often accompanied by otitis media with effusion. However, hearing loss is mild-to-moderate, which makes it difficult for parents and medical professionals to detect. Even if symptoms are not clear, it is necessary to inform pediatricians, neurosurgeons, and pediatric orthopedic surgeons, involved from infancy, so that patients can visit an otolaryngologist, including for a hearing test, by close to the age of one year. In addition, because there are patients with hearing loss not caused by otitis media, it is necessary to monitor progress until subjective hearing tests can be performed separately for the left and right ears.

はじめに

軟骨無形成症(Achondroplasia: ACH)は四肢短縮型低身長をきたす代表的な疾患である.軟骨無形成症は2~3万人出生に1人の頻度で出生1),3型線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor 3: FGFR3)の膜通過領域の変異が原因となり,軟骨細胞増殖が阻害され,内軟骨性骨化障害が生じるために起こる.98%以上の症例が380番目のグリシンがアルギニンに変換される変異を認め,遺伝様式は常染色体顕性遺伝形式であるが,約90%以上は新規突然変異による2).特有な臨床症状,骨X線所見により出生後早期に臨床的に診断されることが多い.前額部の突出,鼻根部の陥凹,顔面正中部の低形成が起こり,構造的に鼻咽腔狭窄となるため,閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive sleep apnea: OSA)が起きやすく重症化しやすい3).また側頭骨の形成に影響を及ぼすため,耳管の機能不全となり,滲出性中耳炎(Otitis media with effusion: OME)が起きやすい4).OMEはOSA以上の罹患率である5)が,本邦でOMEについてまとまった報告はない.当科で診療を行ったACH 11症例について検討し,耳鼻科が聴覚管理に対してどう関与すべきかを考察した.

対象

小児科医もしくは小児整形外科医によってACHと診断され,2013年9月から2024年12月に当院耳鼻いんこう科外来を受診した11症例(男児3例,女児8例)を対象とした.観察期間は6ヶ月から10年0ヶ月,中央値は3年10ヶ月であった.

方法

当科初診時の年齢,受診契機,新生児聴覚スクリーニング(Newborn hearing screening: NHS),OMEの有無,手術内容,経過,聴力検査の結果についてカルテを後方視的に検討した.OMEの診断は気密耳鏡による鼓膜可動性を含めた鼓膜所見,ティンパノグラムにて評価した.聴力検査は年齢,発達状況に応じて条件詮索反応聴力検査(以下COR)もしくはpeep show testを行った.聴力は0.5,1,2,4 kHzの4分法平均聴力レベルで評価し,25 dB以上40 dB未満を軽度,40 dB以上70 dB未満を中等度,70 dB以上90 dB未満を高度,90 dB以上を重度難聴とした.鼓膜換気チューブは長期留置型であるKOKEN B typeを使用した.

結果(表1:症例一覧)
表1 症例一覧

症例 性別 初診年齢 受診契機
(紹介元)
NHS
(右/左)
OME
(右/左)
手術 経過
聴力検査
1 M 0 NHS
(小児科)
R/R +/+ 0歳:両tube
5歳:両tube(再)
自己中断
評価不十分
2 M 1 OSA
(小児科)
P/P +/+ 2歳;両tube
3歳:A+T
C 52.5→P 30
3 F 1 OSA
(脳外科)
P/P +/+ 3歳:A+T OME治癒
検査希望せず
4 F 1 OSA
(脳外科)
P/P +/+ 2歳:A(他院)
6歳:両tube
両耳漏遷延→右tube抜去
P(50/52.5)→P(55/16.3)
5 F 1 NHS
(小児整形)
P/R -/- 4歳:A+T+両tube 感染→左tube脱落
P 40→P(15/47.5)
6 F 2 上気道
(小児科)
P/P -/- 3歳:A
6歳:再A+T
経過中OME認めず
P(27.5/5)
7 F 2 上気道
(小児科)
P/P +/+ 2歳:両tube
4歳:A+T+右tube
感染→右tube脱落
C 60→C 32.5
8 M 2 上気道
(小児科)
P/P +/+ 2歳:両tube
9歳:A+T
C 50→C 30
9 F 4 OME
(耳鼻科)
P/P +/+ 4歳:両tube P(38.8/36.3)→(16.3/12.5)
10 F 5 OSA
(小児科)
P/P +/+ 6歳:A+T+両tube P 50→P(26.3/17.5)
11 F 6 OME
(小児整形)
P/P +/+ 6歳:両tube P(33.8/36.3)→(18.8/16.3)

P: Pass, R: Refer

tube:鼓膜換気チューブ留置術 A:アデノイド切除術 T:口蓋扁桃摘出術

C:COR P:peep show test 括弧内は(右/左)の聴力レベル

初診時の年齢は0歳1例,1歳4例,2歳3例,4歳1例,5歳1例,6歳1例であった.紹介元は小児科6例,脳神経外科2例,小児整形外科2例,耳鼻科1例であった.受診契機は上気道評価が7例(63.6%),そのうち1歳台で受診した3例は睡眠時無呼吸がありOSAの評価,2歳台で受診した3例は成長ホルモン導入前の上気道評価であった.聴力精査目的は4例(36.4%),そのうちNHSが2例,OMEが2例であった.NHSは全例が受検しており,Passが19耳(86.4%),Referが3耳(13.6%)であった.初診時,9例18耳(81.8%)にOMEを認めた.そのうち1例は保存的治療で改善した.1例は経過中にOMEとなり,最終的に9例18耳(81.8%)が鼓膜換気チューブ留置術(以下,チューブ留置術)を受けた.チューブ留置術のみ施行は3例,咽頭手術が施行された例は8例あり,そのうちチューブ留置術先行は3例,同時手術は2例,他院で咽頭手術を施行した1例は咽頭手術後にチューブ留置術を単独で施行した.経過中,5例6耳(27.3%)でチューブ脱落(抜去を1耳含む)が起き,2例3耳(50.0%)に対して再度チューブ挿入を施行した.

術後管理は,あらかじめ麻酔科と協議し,いびき・無呼吸がないチューブ留置単独例は一般病棟,咽頭手術がある場合はPICU管理としたが,症例1の5歳時再手術では術後の呼吸が保持できず,急遽PICU管理となった.

聴力検査が成立した9例のオージオグラムを示す.OMEを認め,手術前後に検査を施行,チューブが良好な状態で検査ができた6例で閾値の改善を認めた(図12).耳漏遷延の症例4,早期脱落の症例5と一側性伝音難聴を認めた症例6について詳細を示す.

図1  聴力改善例〈症例2,7,8,10〉
図2  聴力改善例〈症例9,11〉

〈症例4〉耳漏遷延例(図3
図3 耳漏遷延例〈症例4〉

脳神経外科よりOSA評価のため受診,初診時にOMEを認めた.当時は当院で術後管理ができる環境になかったため,他院でアデノイド切除術のみを施行,術後CPAP管理となった.OMEは増悪,寛解を繰り返し,聴力に影響が出たため(④-a),チューブ留置術を施行した.しかしチューブ留置後も耳漏が遷延,低域の閾値上昇を認めた(④-b).右耳は真菌感染を起こし治療を行うも制御できず,チューブを抜去した.耳漏が消失した左耳は低域の閾値改善を認めたが,チューブを抜去した右耳は全周波数で閾値の上昇を認めた(④-c).

〈症例5〉早期脱落例(図4
図4 早期脱落例〈症例5〉

NHS一側Referのため他院でABRを施行,右20 dBnHL左30 dBnHLの評価にて経過観察されていたが,小児整形外科の勧めで当院を受診した.初診時OMEは認めなかったが,4歳頃よりいびきの増悪,OME遷延を認め,聴力に影響が出たため(⑤-a)手術治療となった.術後1ヶ月で急性中耳炎となり,耳漏と共に左チューブが脱落してOMEが再発,全周波数で閾値上昇を認めた(⑤-b).

〈症例6〉一側性伝音難聴例(図5
図5 一側伝音難聴例〈症例6〉

初診時よりOMEを認めず,咽頭手術のみを施行した.術前の聴力検査は施行していない.6歳時に聴力検査を行い,右一側伝音難聴を認めた.中内耳CTで耳小骨連鎖は問題なく,左右差はないものの,キヌタ骨体部が幅広い所見を認めた.

考察

ACHは胎児期に疑われ,生後早期より小児科,脳神経外科,小児整形外科を受診する.様々な合併症があり,耳鼻科領域ではOSA,OMEの頻度が多いことが知られている.睡眠時無呼吸や成長ホルモン導入前の上気道評価を目的に1~2歳台で耳鼻科を受診する症例が多かったが,殆どの症例で初診時に既にOMEを罹患,聴力にも影響を及ぼしていた.NHSはPass例が多く,年齢の上昇とともにOMEを発症すると考えられる.チューブ留置術前後に聴力検査が成立した6例で閾値の改善を認め,中耳炎による伝音難聴と考えられた.0~18歳108名の61.1%に聴覚障害を認めた報告6)があるが,ACH 114例の自然歴の調査7)では,7割以上で再発性中耳障害とそれと同程度の伝音性難聴を,16~70歳ACH 45名の調査8)では71%がティンパノグラムの異常を示し,その多くは伝音・混合難聴であり,ACHの聴力障害の原因の多くはOMEによるものと考えられる.今回の検討では,耳鼻科を受診するまでOMEに気づかれていない症例が多かった.聴力に影響が出ていてもOME単独の場合,中等度以内の伝音難聴のため言語でのやり取りが可能であり,保護者や医療者が気付きにくいと考えられる.2020年の米国小児科学会によるガイドライン9)は9から12ヶ月までに聴力検査を行い,OMEの確認を行うよう記載されている.オーストラリアのACH治療ガイドライン10)では無症状であっても毎年聴力検査を行うよう推奨している.日本の軟骨無形成症診療ガイドライン11)では年齢について言及されていないが,米国のガイドラインと同様に明らかな症状がなくとも1歳を目処に耳鼻科に受診するよう他科,保護者に示す必要がある.

今回の検討ではチューブ留置を行った症例は9例18耳(81.8%)であった.海外の64.7%7)や44%8),47.1%12)という報告と比べ高率であり,保存的に改善,治癒する症例が含まれた可能性があるが,適切な時期に治療の介入を行わないと成人期まで続く可能性が指摘13)されており,遺伝学的背景を勘案した早期の介入を行うことが長期的な影響を最小限に留めることに繋がると考えられる.チューブ脱落例ではOMEの再燃が起き,半数で再度チューブ留置術を施行した.文献では2回以上チューブを留置した例が69.3%7),50%12)と示されており同等であった.側頭骨形成異常に伴う耳管機能不全があるため,再燃・遷延しやすいと考えられる.耳漏がなく,聴力に問題がない場合は,チューブの管理を地域へ移行した例が多かった.経過観察期間は最長10年だったが,定期的な受診ではなく他科入院などの契機があった場合に受診しており,チューブ留置の必要期間について十分な考察はできなかった.また,米国9),オーストラリア10)のガイドラインでは2歳までに言語評価を受けることを推奨しているが,今検討では言語評価を行なっていない.中耳炎,聴力検査のみならず,言語発達を評価する機会を作る必要があると考えられた.

症例6はOMEがないにも関わらず,一側性伝音難聴を認めた.低音域の閾値上昇であるため,NHSではPassする可能性があり,発症時期は不明である.Pauliらは一側性伝音難聴を認めたACH 5例中4例に高位静脈球を認め,難聴の原因の可能性を指摘している14).今症例の中内耳CTでは鼓室内の含気は良好で,耳小骨連鎖も問題なく高位静脈球も認めなかったが,ACHに特徴的12)とされるツチ骨体部が幅広である所見を認めた.耳小骨は軟骨性原基から発生し,ツチ骨・キヌタ骨は胎生16週より骨化開始,24週に形態が完成される15,16).胎生27週頃からACHを疑う所見(頭位拡大,大腿骨短縮など)が出現することから,胎児期から軟骨性骨化異常が進行していることが示唆される.耳小骨の軟骨性骨化にも関係し,聴力に影響がでる可能性があるが,画像的な評価では限界がある.日常生活に支障がないと聴力検査を行っていない,耳鼻咽喉科受診が途切れる,聴力検査を希望しない保護者もいるが,左右別の自覚的聴力検査ができるまで経過を追う必要がある.

周術期に関して,症例1の5歳時の再手術では急遽PICU管理となった.ACHは運動発達が遅れるが,通常は独歩可能となる.しかし,この症例は独歩が未確立と非典型であった.強い胸郭低形成を伴っており,肺機能の低さが関与したと考えられた.麻酔科と事前に協議を行い,術後のバックアップ体制を整えた上で手術を行うが,非典型なACHではより注意を要する必要がある.

治療に関して,以前は3歳以上の低身長に対して成長ホルモン治療が一般的な治療であった.そのため治療が始まるまでは小児科,脳神経外科,小児整形外科,耳鼻咽喉科が同一施設でなく,受診の自己中断があっても情報共有されず,手術時の情報収集に時間を要するなど,連携体制の構築が難しい状況であった.2022年よりボソリチド(遺伝子組換えC型ナトリウム利尿ペプチドアナログ製剤)が登場し,本邦では新生児期から治療適応が可能となった.そのため,早期より小児科を中心とした集約的な治療を同一施設でとる体制となり,現在は他領域の情報を共有しやすくなった.今後は,年齢的なマイルストーンを作成し,多岐にわたる疾患特性を各科で共有することが,疾患の発見遅れを防ぐことになると考えられる.

まとめ

軟骨無形成症では構造的な鼻咽腔狭窄を伴い,低年齢から睡眠時無呼吸や中耳炎を起こす.睡眠時無呼吸がクローズアップされるが,明らかな症状がなくとも1歳を目処に聴力検査を含めた耳鼻咽喉科の診療を受けることが望ましい.また,中耳炎以外の難聴例も認め,左右別の自覚的聴力検査ができるまで経過をみる必要がある.年齢的なマイルストーンを元に各科と連携することが疾患の早期発見,早期介入に役立つと考えられる.

本論文の要旨は第20回日本小児耳鼻咽喉科学会(2025年6月)において発表した.本稿はあいち小児保健医療総合センターの倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号2025049).

利益相反に該当する事項:なし

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