2026 年 47 巻 1 号 p. 28-32
日本小児耳鼻咽喉科学会の会員数はここ5年間横ばいであり,入会数と退会数が均衡している.若手医師および会員179名を対象にアンケート調査を実施した.若手医師は本学会の専門性の高さをハードルと感じる一方,小児に特化したディスカッションを評価していた.会員の46%が学会に満足し,33%が学術講演会に毎年参加していた.会員の勤務業態の内訳では開業医の比率が高いが,学術講演会への参加率は低かった.入会動機は知識更新,発表機会,ネットワーキングであった.学会発展のための提言として,教育機会の充実,ネットワーキングの促進,参加しやすい環境作り,多職種・診療科間連携の活用などが挙げられた.本調査により,会員のニーズを把握し,学会運営改善のための貴重な示唆が得られた.
日本小児耳鼻咽喉科学会は1985年の設立以来,小児耳鼻咽喉科領域の学術発展と会員相互の研鑽を目的として活動を続けてきた1).しかし,近年の会員数の推移を見ると,2020年1,216人,2021年1,248人,2022年1,206人,2023年1,208人,2024年1,233人と,ここ5年間で大きな増加は認められず,入会者数と退会者数がほぼ均衡している状況にある(表1).
| 年 | 正会員数 | 入会数 |
|---|---|---|
| 2020年 | 1,216人 | +103 |
| 2021年 | 1,248人 | +136 |
| 2022年 | 1,206人 | +131 |
| 2023年 | 1,208人 | +135 |
| 2024年 | 1,233人 | +90 |
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会には15の関連学会が存在し,耳鼻咽喉科頭頸部外科医師は複数の学会に所属することが一般的となっているが,多くの学会で会員数の減少がみられている2).日本小児耳鼻咽喉科学会(以降,本学会)も例外ではなく医師数には大きな減少がみられ,医師以外の職種(言語聴覚士など)の入会増によって会員数を維持している現状が推測できる.このような状況下で,若手医師の学会参加を促進し,また既存会員の継続的な参加を確保することは,学会の持続的発展にとって重要な課題である.
本研究では,若手医師および会員を対象としたアンケート調査を実施し,学会への参加動機,満足度,継続参加を促進する要因について検討を行い,今後の学会運営に向けた示唆を得ることを目的とした.
本研究は,若手医師を対象とした自由記述式アンケートと,学会会員を対象としたオンラインアンケート調査の2種類から構成される.
若手医師へのアンケート当科主管の学会運営に参加した小児領域に興味のある若手医師3名を対象とし,(1)今後の本学会への参加意向,(2)若手の参加促進策,(3)本学会の良い点,について自由記載形式で回答を求めた.
会員へのアンケート学会メーリングリストを通じてGoogle Formsを用いたアンケート調査を実施した.調査項目は,所属施設・職種,サブスペシャリティ,学会入会後年数,学会満足度,学会参加頻度,入会動機,継続参加促進策などとした.入会動機は複数回答可,サブスペシャリティは2つまでの複数回答とした.
3名中2名から回答が得られた(表2).
| 項目 | 若手医師A(30代前半男性,大学院生) | 若手医師B(20代女性,小児病院経験あり) |
|---|---|---|
| 今後も小児耳鼻咽喉科学会に参加したいか | 臨床に戻ったら入会する.発表のために一度入った○○学会は退会予定.結局は個人の興味次第だと思う. | 今後も参加予定. |
| 若手がもっと参加するには? | 市中病院では小児での学会発表症例を体験することが少ない.医局で小児耳鼻をやっている医師からの働きかけが欲しい.ハンズオンの充実(難しい気道症例や鼓膜換気チューブ留置など)を希望する. | 参加者がエキスパート揃いだという印象がある.ある程度小児の症例に触れていなければ学会に参加してもついていけないのではないか,実臨床に結びつけるのは難しいのではないかと感じる若手が多そう.実際の学会では特殊な症例だけではなく,一般病院における日常診療でも遭遇し得る疾患も提示されると良いのでは. |
| 小児耳鼻咽喉科学会のよいところは? | 少数ならではの他大学との垣根の低さ.LINEグループの存在. | 他学会では発表後の議論も成人症例の内容に置き換わってしまうことがあるが,本学会では最後まで徹底的に小児についてディスカッションができる. |
若手医師A(30代前半男性,大学院生)は,本学会への参加意向を示し,参加促進のためには「市中病院では小児耳鼻科症例を経験する機会が限られるため,医局による積極的な働きかけが必要」「難易度の高い気道症例や鼓膜チューブ留置などを扱うハンズオンの充実」が重要と述べた.また,本学会の良い点としては,「他大学との垣根が低いこと」「SNSグループを通じた交流のしやすさ」を挙げた.
若手医師B(20代後半女性,小児専門医療機関での勤務歴あり)は,今後も継続参加の意向を示した上で,「エキスパート中心の学会という印象が若手の参加を躊躇させている可能性がある」と指摘した.そのうえで,「特殊例だけではなく,一般病院における日常診療で遭遇し得る症例提示の増加」が参加促進につながると回答した.学会の良い点としては,「議論が成人症例に置き換わらず,小児に特化して深く議論できる」点を評価した.
会員アンケート結果179名の会員から回答が得られた.
回答者の属性:クリニック勤務医が最も多く,回答者の9割以上が常勤,医師であった.小児科・小児外科医師が約1割を占めた.サブスペシャリティは耳・聴覚領域が多いものの,全体的にバランスの取れた構成であった(図1A–E).入会動機としては専門知識の更新・向上,最新の学術情報の取得,研究発表の機会などが多くみられた.

A:所属.複数機関に勤務する者は主要な機関を回答
B:勤務形態
C:職種
D:医師への質問.専門とする科(耳鼻咽喉科頭頸部外科,小児科,小児外科,その他から選択)
E:サブスペシャリティ.2つまで複数選択
F:入会動機.複数回答可
学会入会後年数:中堅~ベテラン医師でも入会後年数が短い会員が一定割合存在した(図2A).

A:入会5年以内の会員を青,6年以上の会員をグレーで示した.
B:学会の満足度.満足を赤,不満を青で示した.
C:参加頻度.毎年参加を赤で示した.
学会満足度:46%の会員が学会に満足していると回答した.「不満」と回答した2名は40歳台前半と61歳以上であり,学術講演会に参加したことがなかった(図2B).
学会参加頻度:毎年参加すると回答したのは33%であった.クリニック勤務医の54%は「ほとんど参加しない」または「参加したことがない」と回答した(図2C).学会に満足している会員の多くが毎年参加していた.
継続参加を促進するための提案としては,「教育の機会を学会が提供すること」「ネットワーキングを盛んにすること」「日常診療に直結するセッション」「小児の基本的な診察技術(鼻の見方,耳の見方,小児への接し方)」などが挙げられた.
本調査により,日本小児耳鼻咽喉科学会の現状と課題が多面的に明らかとなった.
1. 会員数停滞の背景と課題過去5年間の会員数は横ばいであり,入会者数と退会者数が均衡している.学会の持続的発展のためには,単に会員数を増やすだけでなく,既存会員の参加継続を支える仕組み作りが必須である.特に医師会員の減少については早急な対策が必要である.
2. 若手医師の参加ハードルと可能性若手医師の自由記述から,「小児耳鼻咽喉科は専門性が高く,経験が不足していると参加しづらい」という印象を持っていることが判明した.一方で,「小児症例に特化した議論ができる」という点は強く評価されており,本学会の価値そのものでもある.
したがって,若手の参加促進策として
・ハンズオンセミナーの充実
・日常診療に遭遇する症例の提示
・小児診療技術の教育
・SNSを活用した非公式ネットワークの支援
などが効果的と考えられる.若手アンケートの対象者が2名と少ないことは本検討における制限事項である.
3. 中堅・ベテラン医師の新規入会の特徴入会後年数が短い中堅・ベテラン医師が一定数存在しており,再入会のほか,教室長や部長などの立場や部下の発表の共同演者など,特定の目的で入会した可能性がある.これらの会員が学会に継続的価値を見出せる取り組みが必要である.
4. 開業医の参加促進クリニック勤務医の比率が高いにもかかわらず,学術講演会への参加率が低いことが明らかになった.平日の学会参加が難しいことが背景として考えられる.オンライン/オンデマンド配信や週末開催の活用,開業医にとって実践的なセッションの増加が求められる.
5. 多職種学会としての独自性本学会の特徴として,医師のみではなく言語聴覚士をはじめとする様々な職種が加入しているという職種横断性と,耳鼻咽喉科医だけでなく小児科医,小児外科医などが参加し診療科横断性を併せ持つことが挙げられる.このような多職種・多診療科が集まる学会だからこそできる取り組み(例:小児科医が耳鼻咽喉科医に教える,その逆もある)が評価されており,この特徴を活かした企画の充実が望まれる.海外のアンケート調査でも,相互の研修機会の有用性が示されており3),今後さらに交流を深める余地がある.
6. 学会満足度と参加行動の好循環満足度の高い会員は参加頻度も高い傾向がみられ,学会参加により満足度が高まる,または満足度が高いために参加を継続する,という好循環が存在すると考えられる.一方で,学会に参加したことがない会員が不満を感じていることから,「まずは一度参加してもらう工夫」が重要である.
バーナードが企業組織の継続的発展のために必要な3要素として示した「共通目的」「協働意欲(貢献意欲)」「コミュニケーション」4)は本学会にも当てはまり,今後の発展において重要な視点となる.
本調査から得られた示唆を踏まえ,本学会の発展方略として以下を提案する.
1.教育機会の充実
日常診療に直結するセッション,基本的な診察技術の教育,ハンズオンセミナーの充実
2.ネットワーキングの促進
SNS活用,交流機会の創出
3.参加しやすい環境整備
日程・場所の工夫,オンデマンド配信,若手・一般臨床医にも配慮したプログラム
4.多職種・診療科間連携の強化・活用
小児科医や小児外科医との相互教育の場を継続的に設ける
言語聴覚士など他職種との相互理解・教育の場を設ける
5.継続参加のインセンティブづくり
発表機会に加えて,参加し続けたくなるような魅力的な学会運営を追求する
本調査は比較的小規模なアンケートであり,一般化には慎重を要する.しかし,会員の生の声を集めた点は本学会の運営改善にとって貴重な意義を持つ.今後はより大規模かつ継続的な調査により,会員ニーズの把握と学会運営の改善サイクルが構築されることを期待したい.
倫理的配慮:本研究はアンケート調査であり,回答は任意で匿名性が保たれている.調査目的は事前に明示され,回答をもって同意とみなした.
利益相反に該当する事項:なし