急性中耳炎は小児科医と耳鼻咽喉科医が診療対象を共有する代表的疾患である.自然軽快しうるため,軽症例では経過観察が妥当である一方,2歳未満の両側性や耳漏合併例等では抗菌薬の有効性が高い.起炎菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌が中心であり,肺炎球菌結合型ワクチンの導入後は難治例や再発例は減少したが,βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌への抗菌薬選択など,依然として課題はある.近年の疫学研究により,乳幼児期の抗菌薬曝露がアレルギー疾患の発症リスク増加と関連することが報告され,抗菌薬適正使用の重要性は一層高まっている.一方で乳様突起炎などの合併症を来たす例もあり,適切なタイミングでの治療介入も同様に重要である.中耳炎診療においては,小児科医と耳鼻咽喉科医の相互理解と連携強化が不可欠である.
世界的な薬剤耐性菌の増加を背景に,抗菌薬の適正使用への関心が高まっている.小児科医と耳鼻咽喉科医は診療対象が重なっており,互いの考え方や診療方針を理解することは重要である.このような背景のもと,「小児科耳鼻咽喉科合同感染症セミナー」が企画され,第1回は深頸部膿瘍,第2回は急性鼻副鼻腔炎が取り上げられた1,2).第3回では小児急性中耳炎をテーマに,小児科医と耳鼻咽喉科医それぞれの立場から診療への向き合い方を解説した.本稿では,小児科医の立場からの見解を紹介する.
急性中耳炎は小児科医にとって非常に身近な疾患である.多くは急性上気道炎に続発し,発症までの中央値は約4日とされる3).乳幼児,特に3歳未満ではルーチンとして鼓膜診察を行うことが推奨される.乳幼児では耳の症状を自ら訴えることが困難であり,耳痛や耳漏よりも発熱や不機嫌を主訴に受診することが多い.
小児科の診療では,いかなる主訴であれ,まず全身状態の評価から開始する.全身状態の評価はPediatric Assessment Triangle(PAT)と表現され,見た目(A: Appearance),呼吸(B: Breathing),循環(C: Circulation)の状態を「パッと(PAT)」数秒で観察する.すなわち,意識レベル低下,活気低下(ぐったりしていないか),呼吸窮迫徴候(肩呼吸,陥没呼吸,鼻翼呼吸)や循環不全徴候(末梢冷感,網状チアノーゼ)の有無を瞬時に確認する.これらに加えてバイタルサインを確認し,介入を要する病態かを評価する.安定していれば,病歴聴取と系統的診察により,熱源の評価を行い,併行して疾患のリスクファクターを確認する.中耳炎であれば,年齢(乳幼児:特に3歳未満),鼻汁や結膜炎の有無,集団保育,同胞,ワクチン歴(主に肺炎球菌結合型ワクチン),流行疾患(RSウイルスなど)を総合的に考慮し,マネージメントを決定する.
急性中耳炎の重症度評価は年齢,臨床症状,鼓膜所見に基づいて行われる.米国小児科学会の急性中耳炎診療ガイドラインでは,鼓膜所見を「正常・軽度・中等度・重度」の4段階に分類している4).全身状態,耳痛の持続期間,発熱,耳漏の有無などによって重症度を分類し,年齢(2歳未満),両側性/片側性,重症度によって抗菌薬の適応が記載されている.重症度は,臨床症状として全身状態不良,耳痛が48時間以上持続,39℃以上の発熱が48時間持続,のいずれかを伴う場合を重症と定義している4).本邦のガイドラインでは,詳細な鼓膜所見(発赤,膨隆,耳漏)と臨床症状(耳痛,発熱,啼泣,不機嫌)からスコアリングを用いて軽症,中等症,重症に分類している5).なお,2025年に発表されたThe New England Journal of Medicineの総説の中では,2013年の米国小児科学会のガイドラインについて,「両側性か片側性かで抗菌薬投与の判断を変える事を著者は推奨しない」,「疾患の重症度を耳痛と発熱だけで判断するのではなく,不機嫌・睡眠障害などより幅広い病歴や所見で判断するべきである」と言及されている3).指摘された点は本邦のガイドラインでは以前から含有されている項目である.しかし,本邦の急性中耳炎ガイドラインでの鼓膜所見を含めたスコアリングに忠実に準拠した診療を行っている小児科医はおそらく多いとはいえず(Personal communication),この点は耳鼻咽喉科医からは診療の不十分さとして認識されている可能性がある.
これまでの臨床研究により,急性中耳炎の75–80%は抗菌薬投与を行わずとも3–7日以内に臨床症状が改善しうることが報告されている6–8).そのため,軽症を含めた全例が抗菌薬投与の対象とはならず,臨床症状や鼓膜所見を考慮した重症度評価が重要となる.
小児科の成書であるNelson Textbook of Pediatricsには,「軽症の中耳炎は自然に改善することが多く,数日間の経過観察は許容されること」,「経過観察中には十分な量の鎮痛薬を使用すべきであること」,「慎重な経過観察と小まめな再診(close follow-up)が重要であること」が記載されている9).また,厚生労働省の抗微生物薬使用の手引き(第3版)にも,急性中耳炎は自然軽快しうる疾患であり,軽症で重症化のリスクが低い症例は,年齢・基礎疾患・鼓膜所見・全身状態を考慮して,抗菌薬を投与せず2–3日の経過観察を検討する,と記載されている8).本邦のガイドラインでも,年齢とリスク因子を考慮し,臨床症状と鼓膜所見の評価の上で,軽症例では3日間の経過観察が推奨されている5).
自然軽快の背景にはウイルス性中耳炎があること,また,細菌性であっても菌種によっては自然軽快することが挙げられる.2004年のPediatrics in Reviewに掲載された総説では,肺炎球菌で20%,インフルエンザ菌で50%,モラキセラ・カタラーリス80%で自然軽快すると記載されている10).また,Moffet’s Pediatric Infectious Diseases(小児感染症の教科書)の中では,急性中耳炎を対象とした臨床研究のプラセボ群のデータが引用され,中耳腔穿刺で起炎菌と同定した小児の急性中耳炎患者で,肺炎球菌は2/49例(4%),インフルエンザ菌は12/25例(48%)がプラセボ投与で軽快しており,起炎菌により自然軽快率が異なることが述べられている11,12).これは古い研究であり,現在の診療にそのまま適応できるかは注意を要するが,中耳腔穿刺による起炎菌同定が実施されていた時代の貴重なデータである.
なお,急性中耳炎が自然軽快しうる疾患である一方で,抗菌薬投与のメリットの大きいハイリスク集団は認識しておく必要がある.2006年のLancet誌に報告されたメタアナリシスでは,抗菌薬の効果がより高い集団として,2歳未満,両側性,耳漏のある例を挙げており7),これらの要因は米国小児科学会のガイドラインにおいても重要視されている4).抗菌薬治療の目的は,急性中耳炎に伴う症状の早期改善と続発する合併症を減らすことであり,重症度評価を適切に行うことが重要である.
急性中耳炎は,中耳腔のウイルスまたは細菌感染症である.ウイルスでは,RSウイルス,パラインフルエンザウイルス,インフルエンザウイルス,エンテロウイルス,ライノウイルス,ヒトメタニューモウイルス,アデノウイルス等があげられ,ウイルス感染は二次性細菌感染症を併発しうる.細菌としては,肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラキセラ・カタラーリスが代表的な起炎菌で,A群β溶血性レンサ球菌と黄色ブドウ球菌が関与する場合もある.細菌性,ウイルス性,混合感染を臨床的に判断することは容易ではない.抗菌薬選択を考える際には,多くの場合,肺炎球菌,インフルエンザ菌を主たる標的とする.1990年代後半から2000年代初頭は,ペニシリン耐性肺炎球菌(Penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)による中耳炎の再発例・難治例が問題となっていた.しかし,肺炎球菌結合型ワクチンの導入に伴い,中耳炎の再発例・難治例は減少傾向にある13).また,ワクチン含有株にペニシリン耐性株が多かったことも背景に挙げられる14).
薬剤感受性は,米国臨床検査標準委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute: CLSI)の基準に基づき,判定される.肺炎球菌の耐性機序はペニシリン結合蛋白の変異により,感性(Susceptible),中間(Intermediate),耐性(Resistant)の3つに分類される(表1).PRSPの頻度が議論される際に,ペニシリン経口の基準が用いられることが多いが,実臨床ではアモキシシリン(AMPC)が用いられることが多く,最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration: MIC)≦2までは感性(S)と判断される.さらにAMPCは高用量(80–90 mg/kg/day)であれば,MIC=4まで治療可能とされる.本邦での厚生労働省院感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance: JANIS)の調査結果の一覧を表2に示した15).肺炎球菌のほとんどがアモキシリン高用量で治療可能であることがわかる.
| 感性(S) | 中間(I) | 耐性(R) | |
|---|---|---|---|
| 髄膜炎基準:ペニシリン静注 | ≦0.06 | ― | ≧0.12 |
| 非髄膜炎基準:ペニシリン静注 | ≦2 | 4 | ≧8 |
| 非髄膜炎基準:ペニシリン経口 | ≦0.06 | 0.12–1 | ≧2 |
| 非髄膜炎基準:アモキシシリン経口 | ≦2 | 4 | ≧8 |
略語:感性(Susceptible: S),中間(Intermediate: I),耐性(Resistant: R)
| 肺炎球菌(17,727検体) | ||||
|---|---|---|---|---|
| 感受性(非髄膜炎基準) | PSSP | PISP | PRSP | |
| アモキシシリン経口のブレイクポイント | MIC≦2 | MIC4 | MIC≧8 | |
| 頻度(%) | 96.3% | 2.8% | 0.9% | |
| インフルエンザ菌(33,262検体) | ||||
| 感受性 | BLNAS | BLNAI | BLNAR* | BLPAR† |
| 頻度(%) | 42.2% | 19.7% | 29.8% | 8.3% |
略語:ペニシリン感性肺炎球菌(Penicillin-Susceptible Streptococcus pneumoniae: PSSP),ペニシリン低感受性肺炎球菌,(Penicillin-Intermediate Streptococcus pneumoniae: PISP),ペニシリン耐性肺炎球菌(Penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)
βラクタマーゼ非産生アンピシリン感性(β-lactamase nonproducing ampicillin susceptible: BLNAS),βラクタマーゼ非産生アンピシリン中等度耐性(β-lactamase-nonproducing ampicillin-intermediately resistant: BLNAI),βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(β-lactamase nonproducing ampicillin resistant: BLNAR),βラクタマーゼ産生アンピシリン耐性(β-lactamase producing ampicillin resistant: BLPAR)
* BLNARの頻度は,ABPC/SBT耐性株で代替した.
† BLAPRの頻度は,AMPC/SBT感受性株からBLNASおよびBLNAIの頻度を引いて推計した.
インフルエンザ菌はペニシリン結合蛋白の変異とβラクタマーゼの産生の有無によって,βラクタマーゼ非産生アンピシリン感性(β-lactamase nonproducing ampicillin susceptible: BLNAS),βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(β-lactamase nonproducing ampicillin resistant: BLNAR),βラクタマーゼ産生アンピシリン耐性(β-lactamase producing ampicillin resistant: BLPAR),βラクタマーゼ産生アモキシリン・クラブラン酸耐性(β-lactamase producing amoxicillin/clavulanate resistant: BLPACR)に分類され,さらに,ペニシリン結合蛋白の変異が軽度なものをβラクタマーゼ非産生アンピシリン中等度耐性(β-lactamase-nonproducing ampicillin-intermediately resistant: BLNAI)と呼ぶ.AMPC高用量では,BLNAS,BLNAIは治療可能とされ,BLPARやBLNARについては他薬剤での治療が必要となる.一方,インフルエンザ菌の自然軽快率を約50%と見積もると11,12,16),AMPC高用量治療での不応例の頻度は「30%(インフルエンザ菌の検出頻度)× 40%(AMPC高用量不応)× 50%(自然軽快しない頻度)=6.0%」と概算され,初期治療の段階で必ずカバーしないといけないほどの高頻度とは言えない.鼓膜所見を考慮していない推計値ではあるが,このような背景から急性中耳炎の第一選択薬としてAMPC高用量が推奨されていると解釈している.AMPC高用量不応のセカンドライン,特にBLNARに対する治療については,第3世代セフェム系抗菌薬,トスフロキサシンなどが選択肢となるが,その優先順位に関する定まった見解はない.第3世代セフェム系抗菌薬は吸収率が悪い点やピボキシル基含有の抗菌薬が多いことから,低カルニチン血症に伴う低血糖症のリスクを考慮し処方が控えられる傾向にある17,18).トスフロキサシンはバイオフィルムの移行性が良好である点19)から治療選択肢なるが,吸収率がキノロン系抗菌薬の中では30–40%と高くない点20),耐性を獲得されやすい点,キノロン耐性インフルエンザ菌の増加している点21,22)にも注意を払う必要がある.いずれの薬剤も有効性とリスクを天秤にかけて使用すべきである.
本邦の小児中耳炎ガイドライン(2024年)では中等症以上では鼓膜切開の適応を常に考慮すべきであると記載されている.小児科医は実施困難であり,耳鼻咽喉科医との適切な連携を取る必要がある.
「経過観察」または「抗菌薬投与」,「狭域抗菌薬」または「広域抗菌薬」という議論においては,乳様突起炎などの合併症リスクと薬剤耐性菌対策や後述する抗菌薬曝露の不利益を総合的に評価し,バランスのとれた診療を行う必要がある.判断の根拠として,(1)軽症例を適切に見極められているか,(2)初期治療の開始後に適切に再診できているか,(3)合併症へ進展する前に鼓膜切開や抗菌薬変更といった介入を行えているか,といった点が挙げられる.
乳幼児期における抗菌薬曝露とアレルギー疾患発症リスクの関連については,複数のコホート研究が報告されており,いずれも発症リスクの増加を示唆している23–25).本邦のコホート研究では,2歳未満で抗菌薬の投与を受けた群は非投与群と比較して,5歳時点の気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎の発症のオッズ比(95%信頼区間)が各々1.72(1.10–2.70),1.65(1.05–2.58),1.40(1.01–1.94)であったと報告されている23).カナダのコホート研究でも,1歳未満で抗菌薬投与歴を有する児は非投与群と比較して気管支喘息の発症率が高く,さらに抗菌薬曝露回数が多いほど発症リスクが増加する傾向が示された24).小児科医はこれらの知見も考慮し,抗菌薬の適応を慎重に判断している.
一方で,中耳炎の合併症である乳様突起炎,顔面神経麻痺,硬膜下膿瘍,硬膜外膿瘍,S状静脈洞血栓症,Bezold膿瘍などは,長期入院や後遺症につながりうるため,重症の中耳炎に対する早期介入,合併症を適切な拾い上げる診療能力が不可欠である26).
英国では,ガイドラインの整備などでプライマリーケアの現場で急性中耳炎に対する抗菌薬投与が経年的に減少していたが,乳様突起炎の経年的増加とは明確な関連性は認めなかった.一方で,乳様突起炎の発症者を急性中耳炎に対する抗菌薬投与の有無で評価すると半減させる結果となっていたが(抗菌薬投与あり群vsなし群:1.8/10,000 vs 3.8/10,000),Number Needed to Treat(NNT)は4,831と算出され,1例の乳様突起炎を予防するためには4,831人の中耳炎患者に抗菌薬処方が必要と見積もられた27).本研究結果は,「軽症の急性中耳炎にroutineで抗菌薬を投与する意義は大きくない」という見解を支持する一方で,病態生理を考慮すると乳様突起炎に進展しうる重症例を的確にピックアップできる診療スキルや耳鼻咽喉科医との連携の重要性が示唆される.
抗菌薬の適正使用とは,単に抗菌薬を減少させることではなく,抗菌薬が真に必要な患者を正確に見極めることである.そのためには重症度評価の精度を高めることが不可欠である.
中耳炎診療の精度向上のため,鼓膜の視認性を確保することは必須であるが,耳垢鑷子を使い慣れない小児科医にとって大きな課題である.近年,鼓膜観察用のデバイスなども進化しており,機器の助けも借りながら鼓膜所見の診察精度を高める必要があるが,鼓膜所見の解釈を含めた診察技術向上の方法論には依然として課題が残されている.さらに,治療後に生じうる滲出性中耳炎に対しての配慮も必要であり,フォローアップが小児科医の中で必ずしも徹底されていない点も課題といえる.
小児の急性中耳炎は,小児科医と耳鼻咽喉科医が共に診療する領域であり,互いの考え方や診療方針を理解する事は極めて重要である.本学会の多くを占める「小児診療に熟達した耳鼻咽喉科医」との連携を多くの小児科医は求めており,診療の背景を相互に理解しあうため,今後も連携を強化していく必要がある.
利益相反に該当する事項:なし