修紅短期大学紀要
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保育所を運営する社会福祉法人の財務的特徴と戦略
損益分岐点分析を用いた分析
館山 壮一
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2022 年 42 巻 p. 37-44

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抄録

 本稿では、保育所を運営する社会福祉法人の財務的特徴を把握するため、東北地方で一園のみ保育所 を営む社会福祉法人6法人5期の財務諸表を取り上げ、事業活動を表す資金収支計算書を基に基礎的財 務分析及び損益分岐点分析を行った。その結果、事業収入のうちおよそ7割が人件費に充てられており、 固定費が大きい業界であることが確認された。次に、損益分岐点分析を勘定科目法により実施したとこ ろ、限界利益率は83%、事務費の一部を変動費に振り分けた場合で77%となった。損益分岐点売上高 は1億815万円で、事務費の一部を変動費に振り分けても1億710万円という結果となった。固定費で ある人件費が大きいことから、需要の変動に対応しづらい業界体質であり、経営的にはパート・アルバ イトの採用を増やし変動費化させることも戦略の一つではあるが、そのような戦略では長期的な人材の 質が保てず、保育所の特色が打ち出せなくなると指摘した。そして、さらなる少子化が目前に迫る時代 だからこそ、人件費が大きいことを逆手に取り、保育所の特色を打ち出せる特徴ある人材の確保が、園 の人材戦略になり得ると指摘した。本稿はごく狭い範囲の分析にとどまっているため、今後は、大規模 園との比較や、法人全体としての決算の特徴、他県との比較など多様な分析により保育所の財務的特徴 を明らかにし、少子化に備えるための戦略の構築を考えていきたい。

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