抄録
美術館等の展示施設において室内空気汚染物質の測定を行う場合,鑑賞を妨げないよう,サンプラー自体は出来るだけ小さく,また設置するサンプラー数を最小限にすることが望ましい。そこで本研究では,既存のアルデヒド・ケトン類捕集用パッシブ・サンプラー(DSD-DNPH)および揮発性有機化合物(VOCs)捕集用パッシブ・サンプラー(VOC-SD)の捕集部位を連結した二連式パッシブ・サンプラー(Passive-Duet)を作成し,秦野市立宮永岳彦記念美術館展示室における室内空気汚染物質の実測調査を行った。Passive-Duetのアルデヒド・ケトン類捕集部は,VOCs捕集部との連結により拡散フィルターの16%が覆われるため,サンプリング・レートが変化する可能性がある。そこで美術館展示室内にて,DSD-DNPHと同時曝露実験を行い捕集量を比較した。捕集時間は38.5時間,測定位置は床から2mであった。その結果,ホルムアルデヒド等の捕集量には両サンプラー間で有意差は見られず,連結部も拡散フィルターとして機能していることが示唆された。よってPassive-Duetのサンプリング・レートはDSD-DNPHの値を用いた。またPassive-Duetのトラベルブランク値は低く,μg/m3オーダーの空気中濃度測定が可能であることがわかった。Passive-Duetを用いて2006年7月9日~11日まで美術館展示室内3地点および室外1地点で空気質の測定を行った(捕集時間38.5時間)。その結果,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,トルエン,m,p-キシレンおよびp-ジクロロベンゼンが定量されたが,室内空気中濃度は室内濃度指針値に比べて顕著に低く,美術館の室内空気質は機械換気システムの常時稼動により良好な状態にあることがわかった。