多くの職場は室内にあり, 複数人で共通の時間を過ごすことが多い。職場の微生物汚染において懸念されるのは不調者の集団発生であり, 感染症から建物に起因する健康影響まで様々な問題がある。結核やインフルエンザ, 風疹などはヒトからヒトへと感染するが, レジオネラ症や真菌アレルギーなどは設備機器から環境中へ放出された微生物が原因となる。設備機器からの発生には, 冷却塔や空気調和設備のメンテナンス不良, 加湿器の清掃不備などの人為的な要因もある。対策には, 発生源である設備や機器の清掃や薬剤の継続的投入による殺菌処理があるが, 企業にとってはコストパフォーマンスも重要となる。
一方, 職場での集団感染の発生は, 企業の経済的基盤や社会的責任にも影響し, 発生源対策以上に感染経路対策を含む感染予防対策が重要視されている。 労働安全衛生法第68条には, 職場における感染拡大を防ぐために「就業の禁止」が定められている。しかし, 季節性インフルエンザや麻疹, 風疹は就業禁止の対象ではないため, 個人だけでなく企業の対応も重要となっている。製造業においては, 水溶性切削油曝露による過敏性肺炎が注目され, 鉱物油や界面活性剤だけでなく, 切削油中で増殖した微生物を含む混合物に曝露されることで発生すると考えられてきている。
職場における微生物による健康影響の防止において, 良好な職場環境を維持するということは今後さらに重要になると考えられ, 作業環境管理も微生物を含めて考えていくことが求められよう。