抄録
環境過敏症の要因であると考えられる建築物の室内空気環境に注目し, 住宅の室内空気環境とシックハウス対策, 非住宅建築物における換気性能の問題, COVID-19のクラスター感染と換気不良, について述べる。日本の住宅は, 温暖蒸暑地由来の木造構法を継承し隙間が多く常時換気習慣が希薄であった。そして, 建築材料等の化学物質利用, 気密化と常時換気設備の普及の中, 多様な換気性状と室内空気環境が発生した。住宅以外の様々な用途の建築物においても, 都市化に伴う高層化や大規模化にともない, 気密化と空調設備の導入が進んだ。そして, 近年では省コスト, 省エネルギーなどによる室内空気環境の悪化が指摘されている。COVID-19クラスター感染が発生した建築物調査によって, 空調換気設備の設計施工・維持管理の不備による換気不良が, 感染拡大の要因として指摘された。このような, 日本の建築物における換気性能の実態を踏まえて, 室内空気環境が環境過敏症等の健康阻害をもたらす機序を明らかにし有効な対策を講じることが重要である。