日本女性科学者の会学術誌
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総説
メタボリックシンドロームにおけるアルドステロン/鉱質コルチコイド受容体活性化機構と心腎臓器障害における役割
長瀬 美樹
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2012 年 12 巻 1 号 p. 11-21

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抄録

アルドステロン/鉱質コルチコイド受容体(MR)系は、従来腎遠位ネフロンでのNa再吸収を司り、生体の体液量・電解質バランス・血圧のホメオスタシス維持に関与すると考えられてきたが、近年その臓器障害作用が注目されている。筆者らは、アルドステロン/MR系の過剰活性化がメタボリックシンドロームに伴う腎障害の病態に関与するか否かを検討した。メタボリックシンドロームを呈する高血圧ラットSHR肥満ラットでは肥満のない高血圧ラットSHRと比べ、早期より足細胞障害、蛋白尿が認められた。本ラットでは血中アルドステロン濃度が高く、腎でのアルドステロン/MRカスケードの賦活化が足細胞障害や蛋白尿に寄与していた。また本モデルのアルドステロン過剰には脂肪細胞由来因子の関与が示唆された。さらに肥満に塩分過剰摂取が加わると、血中アルドステロン濃度は低下するもののMR活性化は増強し、心・腎臓器障害は著しく悪化した。こうした臓器障害に対してMR拮抗薬が有効であった。一方、血中アルドステロン濃度が高くない状況でもMR活性化が臓器障害を惹起しうる。このようなアルドステロン非依存的な新たなMR活性化因子として、筆者らは低分子量G蛋白Rac1を同定した。腎臓特異的にRac1が活性化されるRhoGDI α KOマウスはアルブミン尿、足細胞障害、糸球体硬化を発症し、これらはRac阻害薬により改善するが、Rac1によるMR活性化が本モデルの腎障害に深く関与することが示された。この”Rac1によるMR活性化”は、メタボリックシンドロームやアンジオテンシンII・食塩による腎障害、Dahl食塩感受性高血圧、酸化ストレスによる心障害にも関わっていた。以上、メタボリックシンドロームでは心・腎障害が進展しやすく、その過程にアルドステロン依存性経路ないしRac1を介するようなアルドステロン非依存性経路によるMR活性化が重要な役割を担うものと考えられた。今後、メタボリックシンドロームの心腎合併症に対する新たな治療薬として、MR拮抗薬やRac阻害薬のようなMR活性制御薬の開発が期待され、また大規模臨床試験での長期予後改善効果の実証が待たれる。

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