2019 年 18 巻 6 号 p. 360-365
症例は33歳,男性。某年 8 月にフランスの山岳地域で山歩きをして, 4 日後に帰国した際,軽度の倦怠感があり,腰部右側の瘙痒と同部位に付着するマダニ虫体に気付いた。日本生命病院皮膚科受診時,腰部右側に吸着するマダニ虫体を認めたが,同部に遊走性紅斑はみられなかった。血液検査では肝酵素と CRP の軽度上昇を認めた。直ちに局所麻酔下で皮膚と共に虫体が除去され,テトラサイクリン塩酸塩 750 mg/日が14日間投与された。同年10月に,虫体の同定,マダニ媒介性感染症の精査目的で兵庫医科大学病院皮膚科を紹介された。マダニは Ixodes ricinus の雌と同定され,患者血清のライム病ボレリアに対する IgM 抗体が陽性であったことから,自験例をフランスでのマダニ刺症で感染したライム病と診断した。この症例では予防的抗菌薬治療によってライム病が早期に治癒したと考えられる。海外旅行の際,アジアからヨーロッパ,あるいは北米でマダニ属のマダニに刺された場合,ライム病に感染する可能性があり,皮膚科医として注意が必要である。 (皮膚の科学,18 : 360-365, 2019)