皮膚の科学
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症例
病初期に紅皮症を呈さなかったセザリー症候群の 1 例
田中 菜々子中谷 祥子八尋 知里高井 利浩
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キーワード: 紅皮症, セザリー症候群
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2022 年 21 巻 4 号 p. 267-271

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抄録

79歳,男性。初診約10ヶ月前より全身に強い瘙痒を自覚し,ステロイド剤の外用で改善せず前医を受診した。血液検査で異型リンパ球があり,皮膚生検で皮膚 T 細胞リンパ腫が疑われたため当院当科を紹介されて受診した。当院初診時は頸部,体幹,四肢に淡紅色から紅色,粟粒大から半米粒大までの丘疹が散在し,両鼠径にのみ指頭大までのリンパ節を複数触知した。病理組織学的所見では CD345 陽性 CD7 陰性の異型なリンパ球が真皮浅層に密に浸潤し,表皮向性があり,Pautrier 微小膿瘍もあった。末梢血中にセザリー細胞を認め,フローサイトメトリーでリンパ節,骨髄にも腫瘍細胞が浸潤していた。以上よりセザリー症候群と診断した。セザリー症候群は臨床的に紅皮症を呈し,皮膚,リンパ節,末梢血中に腫瘍 T 細胞を認める予後不良な皮膚 T 細胞リンパ腫である。自験例では症状は強い瘙痒はあるが皮疹は軽微で,経過の中で紅皮症へ進展した。セザリー症候群と診断のついた症例で初診時から紅皮症を呈するものは全体のわずか25.5%で,5.7%は経過を通じて紅皮症を呈さないとされる。紅皮症を呈さないセザリー症候群では86%に強い瘙痒がある。紅皮症に関するメカニズムは明らかにはなっていないが,セザリー症候群における免疫異常や skin-homing molecules の部分的欠失が紅皮症を呈さない一因となっている可能性がある。自験例のように強い瘙痒が主症状で,病初期には紅皮症を呈さず,経過の中で紅皮症に進展するセザリー症候群があることを認識し,紅皮症ではないからと診断を遅らせない必要がある。 (皮膚の科学,21 : 267-271, 2022)

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© 2022 日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
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