2024 年 23 巻 4 号 p. 251-261
【目的】多汗症は体温調節に必要な量を超える発汗により,患者の QOL や労働生産性に支障をきたす疾患である。発汗は気象変化の影響を受けること,近年の世界的な平均気温が上昇傾向にあることから,気象の観点を交えて疾患の分析を行う意義も高まっている。そこで本研究では,多汗症の診療情報と気象データの関連について基礎的な集計と観察を行った。 【方法】診療情報には株式会社 JMDC が保有する健康保険組合のレセプトデータを使用し,気象データには一般財団法人日本気象協会が保有する観測データを使用した。2015年 1 月から2022年 9 月までの期間,レセプト上に「発汗過多」等が観察された延べ患者数1,037,269人を対象として,時期別・地域別の患者数の分布状況を調査した。続いて,患者数と気象データとの関連を単変量解析により分析した。また試行的に多汗症の流行予測への応用可能性についても考察した。 【結果】観察期間を通じた患者数には,およそ夏季を中心にピークを繰り返す周期性が観察された。 単変量解析では,決定係数からみて多汗症の患者数とより関連している気象データ項目は最低気温と体感温度であった。各年の最低気温と体感温度に基づき算出した多汗症の流行開始期の日付は,地域により異なっていた。 (皮膚の科学,23 : 251-261, 2024)