2024 年 23 巻 4 号 p. 262-268
91歳,男性。慢性腎不全に対して維持透析中で,免疫抑制剤の使用歴はない。右上腕伸側にインフルエンザワクチンを接種したところ,数ヶ月後に同部位に皮下硬結が出現し,徐々に増大・潰瘍化した。病理組織検査では潰瘍周囲から真皮深層にかけて CD20,EBER 陽性異型リンパ球を認めたが,骨髄検査や PET-CT にて異常を認めなかった。高齢に伴う EBV-positive mucocutaneous ulcer (EBVMCU)と診断し,経過観察を行ったところ,初診から 2 ヶ月後には縮小傾向を認めた。 EBVMCU は口腔咽頭粘膜,消化管,皮膚に発生する潰瘍性病変で,EBV 関連B細胞性リンパ増殖性疾患の一つである。免疫抑制状態で発症することが知られているが,高齢自体も誘因となりうる。免疫抑制剤の中止,経過観察のみで自然消退することが多く予後良好な疾患ではあるが,病理組織像では diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)などのリンパ腫との鑑別が困難なため,病歴,リンパ節腫脹の有無,全身状態,骨髄検査などを総合的に判断し慎重に診断する必要がある。 (皮膚の科学,23 : 262-268, 2024)