2025 年 24 巻 1 号 p. 47-51
76歳,男性。高槻赤十字病院血液腫瘍内科でキャッスルマン病と溶血性貧血の加療を長年にわたり受けていた。主たる治療はステロイド内服,トシリズマブ点滴であった。また,循環器内科では胸部大動脈瘤も指摘されていた。初診1ヶ月前より出現した左上肢の浮腫の経過フォロー中に,左肘部,右肩部に出現時期不明の発赤を伴う皮膚潰瘍がみられた。皮膚感染症やリンパ腫を疑い右肩部の病変部の皮膚生検を行った。病理組織学的には,壊死性類上皮肉芽腫とともに,Ziehl-Neelsen 染色で多量の抗酸菌が認められ,Mycobacterium shigaense が分離・同定された。本菌は2009年に滋賀県にて初めて報告された,比較的新しく稀な非結核性抗酸菌であり,本症例で10例目の報告となる。系統学的に M. simiae に近いため,今まで誤認されていた可能性がある。自験例を含めて今まで10症例が報告されている中で, 5症例において,患者の居住地が滋賀県であると確認されており,地域特性が非常に高い。大阪府での報告例も3例あり,琵琶湖唯一の流出河川である,淀川の河川水からも本菌が分離されている。病原性は明らかではないが,本例では免疫抑制状態や生物学的製剤の使用が発症リスクとして考えられる。本菌は M. simiae とは抗菌薬感受性が異なるために,分類不能な非結核性抗酸菌症を念頭に置く必要がある。(皮膚の科学,24 : 47-51, 2025)