抄録
66歳,女性。そう痒を伴う顔面の丘疹と下肢の関節痛を主訴に受診した。血液検査所見に異常は無く,梅毒血清反応も陰性であったが,患者は自分が梅毒に感染しており,症状は梅毒によるものだと信じていた。患者は整形外科や内科も受診したが,皮疹と関節痛の原因は明らかにならず,症状の改善もなかった。その後,皮膚から虫が出たと訴えて再度当科を受診したが,患者が持参したものは実際にはゴミや鱗屑であった。このことから,自験例を梅毒罹患に関する妄想が先行した皮膚寄生虫症妄想と診断した。ピモジドを投与したところ,症状は改善傾向を示した。皮膚寄生虫症妄想は精神科領域の疾患であるが,ほとんどの患者は皮膚科を受診し,精神科の受診を拒否する。したがって,皮膚科医が受け入れて,治療することが望ましい疾患である。