抄録
関東各地の博物館に所蔵されているナラガシワ標本の再検討を行うとともに,その主な自生地において生育立地・生育状況の調査を行い,関東地方のナラガシワの分布について改めて整理した.その結果,ナラガシワとされてきた標本の多くが他種あるいは他種間の雑種の誤同定であり,関東地方におけるナラガシワの分布は極めて少ないこと,また,ナラガシワの自生地は,沖積低地の河畔林や山地下部の沢沿いが中心であることが明らかとなった.縄文時代には関東平野に広く分布していたナラガシワであるが,現在は極めて隔離的な分布,残存林的な生育状況を示していることから,河川沿いに分布の中心をもつナラガシワが撹乱頻度の低下や開発の影響などにより減少し,現在は遺存的な分布となっていると考えられた.