読書科学
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原著論文
物語絵本・漫画・児童雑誌をめぐる科学
阪本一郎による1950-1970年代の研究を手がかりに
若林 陽子
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2023 年 64 巻 1 号 p. 15-28

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抄録

 本研究は心理学者の阪本一郎(1904-1987)に焦点を当て,彼が行った物語絵本への探究と,漫画や児童雑誌といった大衆的な子ども向けメディアに対して行った探究の,それぞれの内実と,方法や目的における連続性を明らかにした。阪本は1950年代から漫画や児童雑誌に関する論文を盛んに発表していた。そのなかで阪本は,神話学の知見を再解釈した物語展開の量的分析法を開発し,子どものメディア利用の実態調査や同時代の児童雑誌の評定を行っていた。これらはいずれも,1970年前後から始まった物語絵本への探究にも適用されていた。阪本は,1960年代以降急速な広がりを見せた物語絵本を,子どもを取り巻く多様なメディアのひとつ,大衆的なものと類似の方法で意味づけ,現在出版されているものの価値を吟味する必要があると考えていたと言える。ただし,阪本は,物語絵本を使い捨ての低劣なメディアと考えていたわけではなく,新しい価値ある物語文化としての意味づけを絵本に与えていたことも,本研究は示唆した。1970年代について,これまでの先行研究では,絵本の芸術評論の隆盛が強調されていたが,本研究はこのような1970年代に対する評価を批判的に検討した。

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