読書科学
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64 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 渡邉 幸佑
    2023 年 64 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2023/01/30
    公開日: 2023/03/02
    ジャーナル フリー

     「事実」と「意見」の区別は重要視されているが,従来の区別の基準で「事実」と「意見」を明確に区別することは難しい。従来,書き手/話し手がどのような目的で述べたのかという観点は十分に検討されてこなかった。そこで,本稿では,発話行為論における適合方向性の概念を踏まえ,「事実として述べた文/発話」と「意見として述べた文/発話」を定義した。「言葉を世界へ」という適合方向を持つ,書き手/話し手が真であると思い述べた文/発話は,「事実として述べた文/発話」である。「世界を言葉へ」という適合方向を持つ,書き手/話し手が読み手/聞き手の信念を変化させようと述べた文/発話は,「意見として述べた文/発話」である。

  • 阪本一郎による1950-1970年代の研究を手がかりに
    若林 陽子
    2023 年 64 巻 1 号 p. 15-28
    発行日: 2023/01/30
    公開日: 2023/03/02
    ジャーナル フリー

     本研究は心理学者の阪本一郎(1904-1987)に焦点を当て,彼が行った物語絵本への探究と,漫画や児童雑誌といった大衆的な子ども向けメディアに対して行った探究の,それぞれの内実と,方法や目的における連続性を明らかにした。阪本は1950年代から漫画や児童雑誌に関する論文を盛んに発表していた。そのなかで阪本は,神話学の知見を再解釈した物語展開の量的分析法を開発し,子どものメディア利用の実態調査や同時代の児童雑誌の評定を行っていた。これらはいずれも,1970年前後から始まった物語絵本への探究にも適用されていた。阪本は,1960年代以降急速な広がりを見せた物語絵本を,子どもを取り巻く多様なメディアのひとつ,大衆的なものと類似の方法で意味づけ,現在出版されているものの価値を吟味する必要があると考えていたと言える。ただし,阪本は,物語絵本を使い捨ての低劣なメディアと考えていたわけではなく,新しい価値ある物語文化としての意味づけを絵本に与えていたことも,本研究は示唆した。1970年代について,これまでの先行研究では,絵本の芸術評論の隆盛が強調されていたが,本研究はこのような1970年代に対する評価を批判的に検討した。

実践記録
  • 学部1年留学生を対象にして
    石井 怜子, 菅谷 奈津恵
    2023 年 64 巻 1 号 p. 29-41
    発行日: 2023/01/30
    公開日: 2023/03/02
    ジャーナル フリー

      本研究は,読解を基に口頭報告を行う統合タスクにおいて,読解と口頭報告の達成度と問題点,及び両者の関係を明らかにすることを目的とした。対象は学部1年の留学生で,読解時に読解ノートの作成を求め,ノートの記録と口頭報告のプロトコルを分析した。その結果,読解の段階に既に問題があり,よい口頭報告を行うには重要情報を正確にノートに記録する必要があることが示された。また,生成的な読解ノートは理解の構築と外部記憶の機能を持ち,自分の言葉による報告を促すが,読解ノートから口頭報告で言語化するときに問題が生じる場合があることが明らかになった。留学生の口頭発表や作文の教育に読解教育を組み込む必要性が示唆された。

  • 説明的文章の実践的利用価値に着目して
    安田 元気
    2023 年 64 巻 1 号 p. 42-51
    発行日: 2023/01/30
    公開日: 2023/03/02
    ジャーナル フリー

      本研究では,高校生の不読率の改善を企図し,実践的利用価値(学習内容がもつ職業的な実践においての有用性)に着目した知識探求の読みの授業を実践し,それが授業外の読書につながるかどうかを検討した。対象の149名の実業高校生のうち,各生徒の職業意識に関連する説明的文章を用いた実践によって,その後さらに自主的に読書した者は99名(66.4%)であった。また,その授業外読書の要因として,読書習慣に加え,実践的利用価値と授業内読書(感想)の影響が認められ,知識探求の視点で本と自己とを関連づけることが不読率改善に資する可能性が示された。

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