ソシオロジ
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論文
ケアの倫理からみる日本における母親の反戦・平和運動
――「日本母親大会」と「安保関連法に反対するママの会」における母性の役割に着目して――
元橋 利恵
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キーワード: 母親運動, 母性, 女性運動
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2017 年 62 巻 2 号 p. 39-57

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抄録

本稿の目的は、「日本母親大会」(「母親大会」)と「安保関連法に反対するママの会」(「ママの会」)といった母親の反戦・平和運動について、これまで専らネガティブな側面において捉えてきた母性に着目したフェミニズムの研究の限界点を指摘し、ケア・フェミニズムの視点を援用することによって、女性の政治参加の促進というエンパワメントの観点からその母性役割を考察することにある。 母親大会とママの会それぞれの運動で強調される母性について、当事者の言説と新聞記事から、どのような役割を果たしていたか分析を行った。 分析の結果、一九五〇~六〇年代の母親大会では、「母親」は、命を生む象徴であり、対内的な母親の団結の呼びかけのために機能していた。しかし、新聞報道からは母親大会の「素朴」なイメージは、国政に介入するべきでないという論調の根拠としても機能していたことが明らかとなった。一方、二〇一五年の「ママの会」では、「ママ」とは母親業を意味し、日々の母親業を通じて政治に参加していく過程を、当事者が対外的に動機語りをする際に使われていた。 以上の分析を通じて、母親大会とママの会では、母性は意味や表出の仕方を変えそれぞれの文脈で運動の担い手の政治参加を励ますものとして機能しているということが明らかとなった。このような、運動の担い手たちが母性を、声を上げ政治的主体になっていく過程において自らの目的や課題に利用していく戦略は、これまでの母性に着目したフェミニズム研究の枠組みを広げる母性のオルタナティブな文脈として位置づけることができよう。 そのような語りは新聞報道でも確認された。

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