島根県立中央病院医学雑誌
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症例報告
一般市中病院の内科外来でマネージメントを行い良好な経過を得たデング熱の1例
床並 亜有子藤岡 淳増野 純二
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キーワード: デング熱, 輸入感染症
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2026 年 50 巻 p. 35-40

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概要

近年,熱帯・亜熱帯地域を中心にデング熱感染者数の増加が世界的な懸念となっている.30代の男性がブラジルに1ヶ月間渡航し,帰国後から出現した高熱と全身性皮疹を主訴に当院外来を受診した.白血球減少と血小板減少を呈しておりデング熱を最も疑ったが,麻疹や風疹も鑑別疾患に挙げた.デングウイルスのPCRが陽性となりデング熱と診断した.軽度のヘマトクリット値の上昇があったが,全身状態は良好であったため,外来フォローし良好に経過した.皮疹を伴う発熱の患者では輸入感染症が有力な鑑別疾患になるが,麻疹や風疹もその感染性の強さなどから重要な鑑別疾患になる.大多数のデング熱の患者は外来でマネージメント可能だが,重症化の徴候をモニタリングする必要がある.世界的なデング熱の増加と訪日外国人の増加から,今後も一般の医療機関をデング熱患者が受診する事例は増加する可能性があるため,輸入感染症を疑う症例に対する診療体制の強化は重要な課題である.

Abstract

The rapid increase in the number of dengue fever cases especially tropical and subtropical regions has become a global concern. A man in his 30s traveled to Brazil for a month and presented to our clinic with symptoms of high fever and a generalized skin rash, which appeared after his return. Blood test results revealed leukopenia and thrombocytopenia, making dengue fever a possible diagnosis; however, measles and rubella were also suspected. A diagnosis of dengue fever was confirmed after a positive PCR result for dengue virus. His hematocrit values were slightly elevated, but his general condition was good; therefore, he was followed-up as an outpatient and showed favorable progression. In patients with fever and rash, imported infections are a significant diagnosis; however, measles and rubella are also important differential diagnoses because of their infectiousness. Most patients with dengue fever can be managed on an outpatient basis; however, symptoms and signs of aggravation should be monitored. Owing to the global increase in dengue fever and an increase in the number of foreign visitors to Japan, the number of dengue fever cases diagnosed in Japan can increase. Therefore, it is important to develop a medical system for patients suspected of having imported infections.

【はじめに】

デング熱は蚊を媒介生物としたデングウイルスの感染によって引き起こされる発熱性疾患である.国内では,新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い報告数が減少した2020~2022年を除き,概ね毎年200~300例程度報告されている1).外国人観光客の増加2)などから,これまで輸入感染症の診療経験が少なかった医療機関においても,今後輸入感染症患者を診療する機会が増加すると考えられる.今回我々は,感染流行地域から帰国した直後に皮疹を伴う発熱を呈した症例を,一般市中病院でデング熱と診断し外来でマネージメントしたため,国内並びに世界的な発生状況を交えて報告する.

【症例】

【患者】30代男性

【主訴】発熱,皮疹

【現病歴】X-7日まで約1ヶ月間,妻と生後10ヶ月の子と共にブラジルに滞在しており,X-6日に日本へ帰国した.X-4日に倦怠感を自覚し,39.0℃の発熱を認めたが経過観察していた.X-1日には徐々に解熱すると同時に全身に皮疹が出現し,咽頭違和感,咳も出現した.日本国内での麻疹の局地的な発生のニュースを聞いて心配になり,X日に近隣の医療機関へ受診を問い合わせたが受け入れ困難と判断されたため,当院総合診療科を受診した.筋肉痛,関節痛,易出血性,腹痛,嘔吐,下痢,皮膚掻痒感はなく,診察中に咳はほとんど見られなかった.

【渡航中の状況】滞在していた地域は主に郊外であったが,都市部や田舎でも活動した.現地ではデング熱が流行しており,渡航中に現地在住の母親もデング熱と診断された.忌避剤のスプレーは使用していたが1日1回程度で,夜間も蚊帳は使用していなかったため,数えきれないくらい蚊に刺された.現地での性交渉の有無は問診していない.

【既往歴・併存症】特筆すべきものなし.過去にデング熱の診断歴なし.

【常用薬】定期薬なし.発熱してから市販の解熱薬を内服していた.

【現症】体温36.6℃,血圧123/82mmHg,脈拍89回/分,呼吸数16回/分,SpO2:98%(室内気).眼瞼結膜の蒼白や出血斑なし.眼球結膜の黄染や充血なし.頸部リンパ節の圧痛や腫大なし.咽頭の発赤や扁桃の腫大なし.口腔内易出血性なし.呼吸音清でラ音なし.腹部は平坦・軟で圧痛や自発痛なし,Castell法で脾腫を指摘せず.四肢大関節の熱感や腫脹,疼痛なし.顔面を除く全身にわずかな隆起を伴う小紅斑が無数に点在している(図1).

【初診時検査結果】表1を参照.

【初診後経過】皮疹を伴う発熱を主訴とする患者であり,直近に海外渡航歴があることを踏まえ,デング熱,マラリア,腸チフス,パラチフスといった輸入感染症を疑った.その中でも,現地での流行状況からデング熱を最も疑うと共に,同じ蚊媒介感染症であるジカ熱,チクングニア熱も鑑別に挙げた.一方で,皮疹を伴う発熱を呈する非輸入感染症の中でも,麻疹・風疹は感染性の高さや重症度から無視できず,幼少期から現在までのワクチン接種歴を確認することができなかったことも踏まえ,それらも重要な鑑別疾患に挙げた.そのため,患者を陰圧個室に案内し,飛沫・空気感染予防をした上で診察を開始した.血液培養,麻疹・風疹の抗体,末梢血ギムザ染色を提出し,地域保健所にデングウイルスのPCRを依頼した.厚生労働省検疫所と米国疾病予防管理センターのウェブサイトでは,ブラジルでのデング熱の流行は注意喚起がなされていた3,4)が,麻疹や風疹の流行の情報は検索する限り見つけられなかった.デング熱を最も疑うことを伝え,入院を提案したが合意に至らなかったため,十分な飲水励行と,腹痛や尿量低下,出血傾向などの症状が出現した際には速やかに救急外来を受診することを指導し,外来で経過観察とした.X+1日にデングウイルスⅡ型のPCR陽性が判明し,デング熱と診断した.電話で体調の確認をしたところ,乏尿や出血傾向は認めなかった.X+3日の再診時には,倦怠感は残存しているものの活気は良好で,四肢や体幹部の皮疹は消退傾向であった.血液検査でヘマトクリット値がわずかに上昇していたが,白血球数と血小板数の異常は回復傾向で,その他の臓器障害の出現もみられなかったため(表1),今後状態が重篤化する可能性は低いと判断した.デング熱は2回目以降の感染で特に重症化リスクが高い点と,今後流行地へ渡航する際には防蚊対策が重要である点を説明し,外来での経過観察を終了した.

図1  患者の (A) 胸部,(B) 腹部,(C) 右前腕の紅斑性丘疹

表1  血液検査所見

初診時 X+3日
<血球計数>
WBC 2350 /μL 3260 /μL
 好中球 59.5 % 43.0 %
 リンパ球 31.5 % 42.5 %
 異型リンパ球 1.0 % 1.5 %
RBC 537万 /μL 552万 /μL
 Hb 16.5 g/dL 16.7 g/dL
 Hct 48.9 % 50.4 %
Plt 11.2万 /μL 13.0万 /μL
<生化学>
Na 140 mEq/L 144 mEq/L
K 4.0 mEq/L 3.9 mEq/L
Cl 101 mEq/L 104 mEq/L
BUN 11.5 mg/dL 12.0 mg/dL
Cr 0.92 mg/dL 0.93 mg/dL
AST 35 U/L 37 U/L
ALT 47 U/L 60 U/L
ALP 94 U/L 92 U/L
LDH 249 U/L 282 U/L
CRP 0.11 mg/dL 0.06 mg/dL
<感染症関連検査>
ギムザ染色 マラリアの虫体を認めず
麻疹IgG 陽性
  IgM 陰性
風疹IgG 陽性
  IgM 陰性
血液培養 陰性
<血清リアルタイムPCR>
デングウイルスⅠ 検出せず
デングウイルスⅡ 陽性
デングウイルスⅢ 検出せず
デングウイルスⅣ 検出せず
チクングニアウイルス 検出せず
ジカウイルス 検出せず

【考察】

デング熱は蚊を媒介動物として,デングウイルスの感染によって引き起こされる疾患で,近年世界的に感染者数の爆発的な増加が深刻な懸念となっている5,6). 4~10日間程度の潜伏期間を経て,高熱,嘔気,頭痛や眼痛,筋肉痛,関節痛などを呈するfebrile phase が2~7日間程度持続する.ヘマトクリット値の上昇や白血球数と血小板数の減少を呈するが,毛細血管透過性亢進を伴わない大多数の患者はそのまま快方に向かう5,7).ごく一部の患者では警告徴候(表27)と共に,毛細血管透過性亢進,血漿漏出を特徴とするcritical phase が24~72時間程度持続する5,7)ことがあり,積極的な輸液を必要とするが,それを乗り越えれば血管透過性と体液量は正常化し,自然治癒する5,7).全身管理の他に効果的な治療は確立されておらず,予防が最重要とされている疾患である5,6).国内では,232例の報告があった2024年を例に取ると,都道府県別で報告が多い順に東京都(68例),千葉県(21例)と大阪府(21例),愛知県(19例),神奈川県(13例)であった8).国際線を有する空港のある地域で診断されることが多いことが読み取れる.潜伏期間が約4~10日間と比較的短く,入国後間もない時点までに診断されることが多いためと推定されるが,本症例のように入国後数日して発症するケースは一定の割合で発生しうる.訪日外国人観光客数は年々増加しており2),今後も地方医療機関においてデング熱診療に関わる機会は増加すると想定される.また,出雲市に在住している外国人のうち最多なのはブラジル国籍の人であり,その数は人口比で1.88%にも上る9).全国的にはブラジル国籍の人は人口比で0.17%10,11)であり,全国の人口比の10倍以上,ブラジル国籍の人の多い地域であることがわかる.これらは国籍に基づいた計算であり,帰化などの理由で,ブラジル国籍は持たないがブラジルに所縁のある人はこの数字以上に多いと推定される.従って,特に出雲地域は,国際線を有さないにも関わらず,デング熱患者が発生する可能性が相対的に高い地域であると考えられる.

本症例は,当初近隣の医療機関に受診の問い合わせをするも,診療が困難であるとの返答を受けて当院を受診している.我々は,他の医療機関で診療が困難であると判断された要因を分析し,「輸入感染症の可能性があったこと」,「麻疹・風疹の可能性があったこと」,「デング熱であれば重症化が懸念されたこと」の3点に大別した.

輸入感染症を想起すべき状況として,「海外から帰国した患者を診療する時」と,「輸入感染症を疑う症状がある時」があり,今回はこの両方に該当している.前者の場合,「帰国者であっても輸入感染症以外の疾患に罹患する可能性がある」点に留意が必要であり,今回で言えば麻疹・風疹は重要な鑑別疾患であったと考えている.後者に関して,輸入感染症と一口に言っても多くの疾患があり,当然それらに典型的な症状も多彩であるが,重要な切り口になるのは「皮疹を伴う発熱」だと考えられる.「皮疹を伴う発熱」は,内科学の成書において主要な症候の1つとして扱われている12).その鑑別診断は多岐に渡る12)が,その中に麻疹や風疹も含まれている.麻疹や風疹に関して特筆すべきは,その感染力の高さと,免疫を持たない人に感染した際の重症化率,妊婦が感染した際の胎児への影響である.小児期に適切なワクチン接種を受けていたとしても麻疹・風疹を否定することはできず13,14),また現実的に初診の時点でワクチン接種歴を書面で確実に確認できないことがほとんどである.こういった背景を踏まえると,皮疹を伴う発熱を呈する患者において,たとえ海外渡航歴があったとしても,診察を開始する前に麻疹・風疹を否定することは困難であり,現実的には個室(可能なら陰圧個室)で待機の上,N95マスクを装着した上で診察に当たることが必要になる15).こういった感染対策の煩雑さが,皮疹を伴う発熱を呈する患者の,医療機関へのアクセスを妨げる一因になっていると推定された.

デング熱の疫学については,長らく世界中で報告の基準や定義が統一されていなかったため,報告ごとに重症化率や死亡率のばらつきが大きく,正確な疫学が把握できていないという問題点があった16).それを受けて確立されたWHOのサーベイランスシステムでは,2024年の総患者数が約1430万人,重症例が52258人,死亡例が10638人と報告16)されており,これに基づけば重症化率が0.37%,致命率が0.07%,と算出されるが,いまだ国や地域毎の検査の施行率,重症の定義や報告の基準が異なるといった課題は残っている.そもそも感染者の75%以上が無症状であるとも報告されており5,17),診断・報告されている患者に基づいて正確な疫学を把握することは,困難を極めている.重症化率自体は低いものの重症患者の約5人に1人が死亡していることから,デング熱の患者の大多数は外来で安全にマネージメントが可能と言えるが,適切にフォローアップし,重症化を示唆する警告徴候があれば,集学的治療も視野に入れて診療する必要がある.デング熱に対する有効な治療法は確立されていない.いずれの警告徴候も有さないデング熱の患者では,十分な飲水の励行とアセトアミノフェンによる対症療法が治療の主軸になる5,8)が,患者がcritical phase を過ぎるまでは警告徴候の有無を連日確認すべきである7).本症例では入院の合意に至らなかったが,電話での体調確認を行いながら,外来通院で良好なアウトカムを得ることができた.

表2  警告徴候

・腹痛
・持続する嘔吐
・臨床的な体液貯留
・粘膜出血
・傾眠、落ち着きのなさ
・2cmを超える肝腫大
・急速な血小板減少を伴うHct上昇

引用文献7, "DENGUE GUIDELINES FOR DIAGNOSIS, TREATMENT, PREVENTION AND CONTROL" New edition 2009, Chapter1;Epidemiology, burden of disease and transmission, 11頁 Fig1.4よりWHOの許可を得て引用. 2025年に著者らにより和訳.

【結語】

感染流行地域から帰国後に発症したデング熱の症例を地域の市中病院で経験した.「皮疹を伴う発熱」は,輸入感染症を疑うキーワードの1つであると共に,麻疹や風疹を疑った感染防止対策をとる必要がある.大多数のデング熱症例は連日の外来フォローアップで安全にマネージメント可能だが,警告徴候の確認が必要である.世界的なデング熱症例の増加に伴い,デング熱の患者が輸入感染症専門の診療部門を有していない医療機関を受診する機会が増える可能性があるため,「皮疹を伴う発熱」を呈した症例に対する診療体制の強化や,デング熱を疑った際の適切な初期治療についての知見が広く浸透することが望まれる.

【文献】
 
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