自殺予防と危機介入
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シンポジウム 地域介入の実際
熊本県球磨郡あさぎり町における高齢者のうつ病予防のための地域介入
西 良知小山 明日香濱本 世津江今井 正城福永 竜太阿部 恭久村上 良慈藤瀬 昇
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2019 年 39 巻 2 号 p. 23-29

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抄録

熊本県では、従来から山間部の県境地域で自殺率が高いことが知られており、2007年からは球磨郡あさぎり町をモデル地域に指定して、3年間の地域自殺対策事業が推進された。また、我々は2008年から高齢者のうつ病予防を目的に「スクリーニング調査」「相談事業」「啓発活動」を中心とした地域介入を行うことで当該事業に関わり、県の事業終了後も現在まで介入を継続している。

あさぎり町は、人口が15,000人程度で高齢化が進んでおり、町内に精神科の医療機関がない状態である。

スクリーニング調査では、3年間で町全体を網羅するように、あさぎり町を3地域に分け、毎年65歳以上の住民1,500人程度を対象としている。1次アンケート調査では、「こころの健康アンケート」を郵送し得られた回答のうち、GDS(Geriatric depression scale)カットオフ値以上の住民、経済的な不安の強い住民、希死念慮のある住民を陽性者として、2次面接調査への案内を通知している。また、2次面接調査では、来場者に対して精神科医複数名で診断面接を行い、うつ病等の何らかの精神疾患が認められた場合は、かかりつけ医へ情報提供したり、町外の精神科医療機関への受診を勧めたり、あるいは地域の保健師によるフォロー等の対応を行っている。また毎年、町役場と地域の医師会との保健会議の場で調査結果を報告して、地域の医師等の理解も得られている。

従来から面接調査への参加者を増やすことは、うつ病予防介入の効果を高めることが指摘されているが、我々の調査では、2次面接調査への参加率は低下傾向にあり、課題となっていた。また、面接調査に参加しなかった住民の中にこそ症状の重いうつ病患者がいることを予想し、1次アンケート調査で抑うつの可能性があると判断されたものの、2次面接調査に来場しなかったグループへのアプローチの必要性を感じていた。面接調査への参加群と不参加群で生活背景や抑うつの程度について比較すると、不参加群の方が、年齢、GDS平均点、GDSカットオフ値(6点)以上の住民の割合が有意に高かった。そこで、うつ病予防介入の効果を高めるには、高齢者を対象とした集会などと面接調査を組み合わせることや、面接調査不参加の高齢住民に対して、保健師による訪問や電話による調査が有効と考え、2014年からは、面接調査不参加の住民に対して電話調査を実施している。実際には、熟練した精神科医、保健師、精神保健福祉士が、保健センターから住民宅に電話し、大うつ病診断基準の主要2項目(抑うつ気分、興味・喜びの喪失)等の問診を行い、面接調査後と同様に、必要に応じて地域の保健師によるフォロー等を行っている。

現状では、あさぎり町における自殺率は依然として高い水準で推移しており、自殺率の著明な減少には至っていないが、これまでの取組みについて紹介し、これまでに得られた知見や課題についても報告したい。

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© 2019 一般社団法人日本自殺予防学会
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