社会政策
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特集■正社員の労働時間,非正社員の労働時間
就労世代の生活時間の貧困に関する考察
浦川 邦夫
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キーワード: 時間貧困, 生活時間
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2018 年 10 巻 1 号 p. 25-37

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抄録

 従来の貧困研究の多くは,所得などの経済的な指標を基準として貧困か否かの認定を行ってきた。しかし,労働時間を生活時間論の中に位置づけて展開した篭山京(1910-1990)の考察に見られるように,生計を立てるうえで必要な労働時間ならびに労働に必要な休養・余暇時間も所得と同様に欠かせない資源であり,最低限の生活を持続的に営むうえで必要な生活時間の水準が存在していると言える。欧米では,就労世代の家庭での生活時間の不足を考慮した時間貧困とその要因に関する研究が近年蓄積されており,日本でも個票データを用いた推計が行われつつある。そのため,本稿では生活時間の次元に注目した貧困研究に焦点をあて,その主な分析結果をサーベイし,特に就労世代の貧困の削減に向けた方策を検討する。 生活時間を考慮した貧困分析では,夫婦がともにフルタイム就労している世帯や就学前の子どもを持つ世帯などで時間貧困のリスクが高くなっており,家庭での十分な生活時間の確保にむけた対応が重要な政策課題として浮かび上がる。時間の次元を考慮することで,所得の貧困の削減に対してもより包括的な政策アプローチが可能になると考えられる。

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© 2018 社会政策学会
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