2020 年 11 巻 3 号 p. 77-90
本研究は,生活保護における自立論について歴史的,社会的な分析を行うことを目的にしている。なぜならば,生活保護における自立論はその時代の貧困観や社会福祉政策を反映する論点となっており,現代社会の課題を明らかにできると考えるからである。まず,生活保護行政の自立「支援」論は自助を掲げ,歴史的に実施体制整備,特別事業の実施,ボーダーライン対策創設など申請を抑制するための,いわゆる「適正化」政策として進められてきたといえるであろう。その一方で,生活保護現場実践における自立(自律)論は,「適正化」政策に対抗して,最低生活保障(経済給付)を最大限に使いながら利用者の思いに寄り添い,暮らしを豊かなものにしていこうとした。例えば,中学3年の子どもたちを会議室に呼び,高校進学に向けて努力する機会を提供した「江戸川中3勉強会」である。このように生活保護行政と現場実践の自立論は,自助に対して自立(自律)という相反する目的と方向を持ちながら支援を展開してきた。これらの歩みを分析,考察することで,利用者を中心とした視点から,自立論の課題を明らかにしたいと考えている。