2020 年 12 巻 2 号 p. 62-73
本稿では,公的年金と家族扶養による貧困削減効果の推移について「国民生活基礎調査」の個票データを用いて検討を行った。公的年金は,老後に貧困に陥ることを防止する機能があると同時に,高齢者が家族扶養に依存することなく生活を維持できるようにする役割を果たすと考えられる。そこで本稿では,5つの所得段階ごとに高齢者の相対的貧困率を測定した。その結果,1985年から2015年にかけて公的年金による貧困削減効果は一貫して上昇していた一方で,家族との同居による貧困削減効果は大幅に低下しており,結果として同期間における可処分所得でみた高齢者の貧困率は低下していた。したがって,公的年金による高齢者に対する防貧機能は,家族との同居が減少することによる扶養能力の低下を十分に補うものであったといえる。