社会政策
Online ISSN : 2433-2984
Print ISSN : 1883-1850
12 巻, 2 号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
巻頭言
小特集1 福田徳三と社会政策の世界
  • 玉井 金五
    2020 年 12 巻 2 号 p. 7-9
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー
  • 玉井 金五
    2020 年 12 巻 2 号 p. 10-18
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     福田徳三(1874-1930)といえば,日本における経済学の創成者としてよく知られている。また,戦前期の社会政策学会でも精力的な活動を行った中心的人物として歴史に刻まれている。その福田に関する著作集全21巻が現在刊行中であるが,この巻数からしても福田の著作量がいかに膨大であったかがわかるだけでなく,学問的な守備範囲の広さということにも圧倒されるであろう。

     2020年の本年,社会政策学会は戦後再建70周年を迎えた。1897年の学会発足からはすでに一世紀以上が経過している。そうしたときにこそ,戦前期の巨人と評された福田に焦点を当て,その作品のなかから社会政策・労資関係論を抽出して古典的な教訓を引き出すことは,現代にも強く響く有益なメッセージに繋がるだろう。

  • 西沢 保
    2020 年 12 巻 2 号 p. 19-31
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     100年前のパリの平和条約とILOの創設,恒久平和と社会的正義,国際労働保護法制への「後発国」日本の対応を検討する。平和条約の「第13編 労働」は,労働者の「wellbeingが至上の国際的重要性をもつ」という総力戦を踏まえた要請に沿う画期的なものであった。「労働者のマグナカルタ」といわれた労働9原則・労働保護法制を福田徳三はいち早く日本に紹介した。

     この労働憲章を決めたパリの国際労働法制委員会と日本の代表(岡実ら),後進国日本へのインパクト,国際労働会議への日本の労働代表選出問題,そして治安警察法第17条と労働組合法案,労働問題・労働行政の農商務省から内務省社会局への移管,河合栄治郎の「官を辞するに際して」「社会政策の分岐点」等を検討し,あわせて福田徳三の国際労働問題への関わりも含め,これらの営為の後世への遺産を考察したい。

小特集2 社会保険草創期の「労働者像」
  • 畠中 亨
    2020 年 12 巻 2 号 p. 32-34
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー
  • ―工場監督官及び工場医に着目して―
    新川 綾子
    2020 年 12 巻 2 号 p. 35-46
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿は,工場労働者の「健康」に対する関心が高まりつつあった大戦間期に,労働安全衛生に携わった工場監督官と工場医に着目し,彼らが「工業中毒」をはじめとする「職業病」にどのような関心を抱いていたかについて,『社会医学雑誌』等に掲載された当時の論考を中心に検討した。分析の結果,次のような結果が得られた。工場監督官の一部は医学的専門知に基づいて「職業病」の研究を開始し,「社会問題」化を進め,一部の工場には工場医が配置されたが,「職業病」に対応する診療体制は整備されておらず,診療自体がままならなかった。そのため,工場監督官と工場医の「職業病」に対する認識に相違が生じていた。一方で,工場監督官と工場医に共通するのは,工場労働者に対する蔑みのまなざしであり,工場労働者を教導する対象として捉えるのみならず,医学的選択という名の下で常に評価・選別する対象として扱っていたことがわかった。

  • 中尾 友紀
    2020 年 12 巻 2 号 p. 47-58
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,1939年7月に「勤労者厚生保険制度要綱草案」として起草された公的年金が,1940年9月に「労働者年金保険制度案要綱」として立案されるまでの過程を描き出すことである。用いた資料は,主に国策研究会の報告書等に掲載された会議録等であり,着目したのは適用対象である。その結果,次の3点が明らかとなった。第一に,適用対象を少額所得者としていたにもかかわらず,労働者年金保険では,常時10人以上の労働者を使用する工場等に使用される労働者となったのは,確実に保険料を徴収できる対象を選択したからだった。第二に,「要綱草案」で規定された失業保険を,「制度案要綱」で外したのは,資料がなく数理計算できなかったからだった。第三に,総力戦体制下では戦時労働政策及び戦時経済政策であることが主張されたが,企画課は結局,保険技術に忠実に恒久的に機能する公的年金を創設していた。

小特集3 公的年金の所得保障機能と就労との接続をめぐる課題
  • 山田 篤裕
    2020 年 12 巻 2 号 p. 59-61
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー
  • ―公的年金と家族による私的扶養―
    渡辺 久里子, 四方 理人
    2020 年 12 巻 2 号 p. 62-73
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,公的年金と家族扶養による貧困削減効果の推移について「国民生活基礎調査」の個票データを用いて検討を行った。公的年金は,老後に貧困に陥ることを防止する機能があると同時に,高齢者が家族扶養に依存することなく生活を維持できるようにする役割を果たすと考えられる。そこで本稿では,5つの所得段階ごとに高齢者の相対的貧困率を測定した。その結果,1985年から2015年にかけて公的年金による貧困削減効果は一貫して上昇していた一方で,家族との同居による貧困削減効果は大幅に低下しており,結果として同期間における可処分所得でみた高齢者の貧困率は低下していた。したがって,公的年金による高齢者に対する防貧機能は,家族との同居が減少することによる扶養能力の低下を十分に補うものであったといえる。

  • 百瀬 優, 大津 唯
    2020 年 12 巻 2 号 p. 74-87
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,第一に,厚生労働省「障害年金受給者実態調査」の個票データを利用して,障害年金受給者の生活実態や就労状況を確認した。第二に,障害年金受給者の就労状況について多変量回帰分析を行った。主な結論は以下の通りである。①精神障害による受給者は,年金収入も就労収入も低い者が多く,他の収入を加えても,世帯収入が低くなる傾向が強い。生活保護を併給する受給者も多い。②知的障害による受給者では,親や兄弟姉妹との同居率の高さが目立つが,その他は精神障害による受給者と同様の傾向が見られた。③身体障害による受給者では,年金額が高い者ほど就労収入も高くなる傾向があり,この傾向が受給者間の生活状況の格差を大きくしている。④精神障害では,厚生年金3級の受給者が最も生活困窮に陥りやすい。⑤女性の受給者は男性に比べて,年金収入も就労収入も低いが,世帯収入や生活保護の併給状況において,明確な男女差は確認できなかった。

  • 山田 篤裕
    2020 年 12 巻 2 号 p. 88-100
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査(2014年)」の調査票情報に基づき,在職老齢年金(在老)や再雇用時の賃金低下による高齢者の就業抑制効果および年金繰上げ受給の決定要因を明らかにした。主な知見として第一に在老は就業率を男性62-64歳で-11%,女性60-61歳で−23%引き下げているが,男女とも65-69歳ではその就業抑制効果を確認できない。第二に,再雇用時の賃金低下は在老の就業抑制効果に匹敵し,男性60-69歳で-10%就業率を低下させる。第三に繰上げ受給率は,男性で健康不良であると8%高く,失業していると14%高かった。政策含意として,合理的理由によらぬ賃金低下の是正が進めば,在老の就業抑制効果は65-69歳でも現れる可能性がある。また繰上げ受給が高齢失業者の所得保障機能の一部を担っているとすれば,将来の繰上げ減額率改定の際は,貧困リスクへの影響も慎重に検討する必要がある。

本文
  • ―メンバーシップ型雇用からの考察―
    池田 朝彦
    2020 年 12 巻 2 号 p. 101-112
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     労働者のメンタルヘルスの維持向上が重要な課題となっている。日本ではこの10年来「適応障害」患者数の増加がみられるが,その背景については明らかにされていない。本稿では,「『適応障害』患者数の増加は,職場不適応が増加していることに一因がある」と仮説を立て,労働者を対象とした国際調査,国内調査結果を用い検証した。国際調査結果より,諸外国に比べ日本は職場へのストレス感が高まり,職場での人間関係が悪化していることが示唆された。国内調査結果より,労働者が「仕事」「職場での人間関係」に困っていると感じる割合が増加し,気分の落ち込みとの相関が高まっていることが明らかになった。「職場での人間関係」が重視される「メンバーシップ型雇用」である日本の職場は,現代労働者を取り巻く環境の変化により「適応障害」を引き起こしやすくなっていることが推察された。

  • ―所得保障制度を活用した労働市場中心型への移行―
    松溪 智恵
    2020 年 12 巻 2 号 p. 113-124
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,雇用政策と所得保障政策の両面からイギリスにおける障害者の労働市場参加に向けた施策の現状を分析する。

     雇用政策は,障害者のニューディール政策では任意参加のプログラムであったが,その後のプログラムで義務化と個別化が進んでいる。所得保障政策は,障害者に対する所得保障を「補償型」,「稼働代替型」,「追加費用型」,「社会扶助型」の4つの形に分類する先行研究を用いて分析した。「稼働代替型」の基準が障害程度から労働可能性へと変化し,「追加費用型」は稼働年齢を対象にしたものが設定されるようになった。そして,現在「社会扶助型」は他の制度との統合が進もうとしている。

     イギリスの障害者の労働市場への統合過程は,プログラムが展開される前後で所得保障制度の見直しが行われている。本稿では,雇用政策と所得保障が連動しており,所得保障制度を活用した労働市場中心型への移行が進んでいることを示した。

研究ノート
  • ―福祉職・看護職・介護職への聞き取り調査を踏まえて―
    角 能, 高橋 幸裕
    2020 年 12 巻 2 号 p. 125-132
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿は,ターミナルケアにおいて,福祉職が,職種間の権力関係の現状をどのように認識し,どのような職種間関係を志向しているのか,以上を踏まえてどのような制度を望んでいるのかに焦点を当てて考察する。

     結果を見ると,生活支援と健康管理,治療医学のバランスを同時に考慮することが求められるターミナル期においては,3者に通じた看護職による調整役割を重視している。一方で医師との強いつながりゆえに看護職が健康管理による生命の保持に偏重し,生活支援を後回しにすることが懸念される。そのため医師も含めた医療職が生活支援を看過しないように働きかけることが福祉職の役割と考えられている。他方で福祉職の医療職に対する苦手意識から,生活支援の取り込みのためには,チームケアの中での働きかけのみでは限界がある。そのため権力関係において優位に立つ医師の診療報酬の引き上げという制度化による,生活支援の場への参画が志向されている。

書評
feedback
Top