社会政策
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貸与型奨学金制度が生み出す負担感とその軽減メカニズム
―韓国の所得連動型返還制度(ICL制度)を事例に―
朴 慧原
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2021 年 12 巻 3 号 p. 130-142

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抄録

 本稿は,韓国の事例に着目し,日本でも重要な問題となっている貸与型奨学金制度の利用後に生じる負担感について分析した。先行研究では,利用者の状況に応じて返還を調節できるICL制度の仕組みを理解すれば負担感は軽減されるとみなされていたが,制度の分析及び利用者へのインタビュー調査の結果,制度の仕組みよりも,「奨学金を利用して高等教育を受ける若年層を積極的に支援する」という制度の理念を内面化することが,負担感の軽減においてより重要であることが明らかになった。

 特に,利用者は「奨学金を利用する行動」を「借金」ではなく「未来への投資」として解釈していた。しかし,こうした解釈は心理的な効果はあるものの,実質的な負担の軽減までは期待できず,利用者にとっては両義的な効果をもたらすことにもなっている。

 なお,本稿では奨学金の利用前に生じる負担感については検討できず,今後の課題はICL制度の導入による負担感の軽減が,非利用者等も含め学生全体に対して与える影響の検討である。

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