2021 年 13 巻 1 号 p. 132-143
本稿では,戦間期におけるイギリス港湾産業の産業別全国交渉・協約に,労働組合と使用者それぞれがどのような機能を期待し,どのようにかかわったのかを検討する。
1920年代前半の港湾産業では,労働組合が賃金・労働条件の最低限規制としての産業別全国交渉・協約の形成・確立を主導し,対して使用者の側は産業別全国交渉・協約の適用範囲の縮小を追求することでローカルな単位での賃金・労働条件決定の余地の拡大を追求した。しかし1930年代になると,使用者の側が産業別全国交渉・協約の適用範囲の拡大を,能率向上を妨げるローカルの制度・規制の解体のために追求し始める。戦間期には,使用者が解体を企図した制度・規制を支える港湾労働者の交渉力や自律性が強化されており,産業別全国交渉・協約の性格の変化は,この制度・規制の維持をめざす労働者のローカルな闘争を,使用者が解体できなかったために生じていたのである。