2022 年 13 巻 3 号 p. 150-157
欧州では,リーマン・ショックを経た2010年代以降,労働供給側中心の積極的労働市場政策(ALMPs)は不況期には機能しないことが痛感され,労働需要側への政策手段の開発に関心が高まっている。「雇用主の関与」すなわち,雇用主の,バルネラブルな諸集団の労働市場参加の促進という社会的課題への積極的な関わりの「引き金」となるのはどんな政策手段か。かかる問題関心からの研究が進んでいる。
「雇用主の関与」研究は,雇用主のALMPsへの参加動機や参加内容の分類と記述など,現段階では探索的なものが多い。しかし他方で,雇用主を制度的環境や個別的状況を認知し解釈し行為する「行為主体」と見なし,労働需要は雇用主の認知に媒介された可塑的な構築物と捉えることが,重要な分析枠組みのひとつとして共有されつつある。そこで発展してきた諸概念や分析枠組みは,日本国内の同様の研究に対して有益な示唆をもたらすだろう。