社会政策
Online ISSN : 2433-2984
Print ISSN : 1883-1850
特集 パンデミックと社会政策の未来
感染症と社会政策
――近代日本における非常時と政策形成――
榎 一江
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2022 年 13 巻 3 号 p. 16-27

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抄録

 日本における社会政策の形成は1911年の工場法を嚆矢とし,主に工場労働者の労働条件に対する規制や医療保険制度の導入によって発展した。1897年に結成された社会政策学会は,1907年に「工場法討議」をテーマとして第1回大会を開き,社会政策を求める世論を喚起したが,1924年に活動を停止した。

 こうした日本の社会政策の歴史的展開と感染症との関係は,これまでほとんど議論されてこなかった。100年前に日本を襲ったスペイン・インフルエンザの大流行も忘れられていたと言ってよいだろう。しかしながら,この頃から結核に対する対策が本格化するなど感染症対策への関心が高まり,1922年の健康保険法によって公的医療保険制度が設けられ,1923年の改正工場法がより実質的な労働者保護を推進した。

 本稿は,近代日本における社会政策の形成に焦点を当て,感染症が与えた影響を検討する。人々の日常生活を維持するためにとられた非常時の政策形成に注目し,ここから,社会政策の未来を展望するための示唆を得たい。

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