2023 年 15 巻 1 号 p. 102-113
アメリカは歴史的に復員兵や遺族に対する寛大な退役軍人福祉を実施してきた。同国は独立戦争以降,全国的な退役軍人福祉制度を構築した。当該制度は南北戦争を経て,元兵士への老齢年金として機能した。また第二次大戦を機に,政策対象が健常帰還兵を含めた全退役軍人へと拡張された。
既存の研究は,主に連邦政府による政策に焦点を当ててきた。しかし,退役軍人福祉を連邦政策のみに還元することはできない。州・地方政府は,退役軍人や寡婦に対し,救済,兵隊下賜金,教育支援,そして住宅融資に代表される独自の支援制度を実施した。また当該政府は財産税の減免などを通じた,兵士や家族への税制優遇も整備した。本稿は,州・地方政府による退役軍人への援護政策に着目することで,アメリカ退役軍人政策が,連邦,州,そして地方政府が実施した支援策を通じて,「重層的」に発展してきた点を明らかにする。