2024 年 16 巻 1 号 p. 127-139
この論文では、自律を多次元的概念と捉えるC.マッケンジーの学説とM.フリッカーの認識的不正義の議論を参考に、自律と認識とのかかわりを検討した。検討の結果、認識的不正義は自律の自己授権の次元に含まれる社会的承認の拒否と大きく重なる概念であり、その害は自律の自己授権の次元だけでなく自己統御の次元に及ぶ可能性があることが明らかとなった。そこで本論文では認識的不正義の制度的是正策を提唱しているE.アンダーソンの議論を参考に、認識論的観点からみた自律の保証策を検討した。論文では、アンダーソンが社会統合を目的とするアファーマティブ・アクション(AA)という政策的指針を提示していることを確認したうえで、その是正策には、①統合というAAの目的の共有、②適用される文脈の限定、③AAがもたらす承認拒否への対策、④教育や雇用へのアクセスを前提としない構造変革的是正策の検討という4つの課題があることを指摘した。