日本において、市民のエネルギー利用における困窮状態は、社会保障システムにおける「生活困窮者のエネルギー問題」として対策が制度化されている。そのため、社会保障システム自体の機能不全がこの問題への対策においても反映されていると考えられる。本稿は、「エネルギー貧困」概念を用いてこの現状を問題化する。具体的には、エネルギー貧困に脆弱な世帯の「生きられた経験」を現象学的解釈学分析の手法で分析し、日本の制度下における問題の様相を関係論的に明らかにする。分析からは、「制度的認識の限定性」、「エネルギー利用に関するニーズの不明確さ」、「当事者の認識における矮小化」の相互作用の結果としてエネルギー利用の困窮問題が矮小化されていることが示される。ここからは、エネルギー貧困概念の制度的措定は、矮小化されている困窮を問題化し、所得面での対策にとどまらない多面的な方策を可能にすることが示唆される。