本論文は、J. R.コモンズの「競争の脅威」のフレームワークを用いて、1985年の通信の自由化を起点とする市場の拡大が、日本の情報通信産業の労働組合の戦略に与えた影響を分析する。規制緩和前の労働組合は、下請労働者を組織化し、単一の産業別労働組合を形成する方針を掲げた。しかし規制緩和後はその方針を解消し、労使協調に基づき企業レベルで雇用を維持する戦略に転換した。この戦略は、組合員の雇用維持に貢献したが、労働条件の引き下げや交渉構造の分権化および産業における労働組合の交渉力の低下を招く要因となった。分析結果は、労使協調のアプローチで「競争の脅威」に対応することの限界を示すと同時に、労働の不安定化を抑制する制度的要因の欠如を示している。