抄録
これまでの福祉国家の類型論は,既に形成された,分析される時点での分類に重点が置かれ,なぜその差異が生まれたのかに関する歴史的な検討がなされてこなかった。そこで本稿の目的は,福祉国家形成の政治を視野に入れた,家族政策の理念に基づく福祉国家の新たな類型化を求めるものである。19世紀末よりヨーロッパにおいて,出生率の低下による将来の人口減少という人口問題の認識が各地で広がっていた。これに対し,各国で家族政策のあり方が大きく議論され,その対応の仕方により戦後の福祉国家が規定されたのである。本稿の対象とする国は,スウェーデン,フランス,イギリスである。人口問題を重視し個人に対する保障を発展させたスウェーデン,人口問題から家族を単位とした政策を発展させたフランス,人口問題が一つのイシューとなることなく家族への国家の介入が避けられたイギリス,それぞれが戦間期より福祉国家の特徴を持ち続けているのである。