抄録
近年の日本においては社会政策研究が随分盛んになっているが,以前みられた社会政策全体にかかわる方法論次元での論争や論議が低下してしまっている。社会政策の対象とすべきテーマがかなり広くなったことに加えて個別研究が深化し,なかなか全体を見渡すところまでいかなくなっているという事情がある。いいかえれば,社会政策研究を進める上で拠って立つべき学問的系譜がみえにくくなってきているのである。こうしたなかで,社会学者として活躍した福武直の学説に注目し,その軌跡を追ってみようというのがこの小特集の意図である。というのも,福武はかつて伝統的な社会政策論に異論を唱えた人物であり,その所説は福武の晩年になって再評価されるようになったからである。それだけでなく,福武の位相を確定することは日本の社会政策研究の系譜をより鮮明にするであろう。