福武直(1917-1989)は農村社会学者として知られるが,社会政策学会との関連も深い。社会政策本質論争のときに論文を発表し,批判された。その後,社会政策に対して沈黙を守るが,晩年,再び発言するようになる。その福武は,日本の社会学史のなかで,(1)実証研究の伝統の確立者,(2)農村社会学の学派の創設者,(3)社会調査法の確立者,(4)標準的な教科書の作成者,としての顔をもつ。社会学者・福武に対しては,社会学を現実に向かわせ,日本社会の普遍的な説明を試みた,との肯定的な評価がある一方,社会学のなかにマルクス主義を密輸入したとの批判もある。福武の本質論争のときの論文には晦渋さが目立つが,これを戦前の社会学から戦後の社会学への脱皮のための通過儀礼と解すると理解しやすい。晩年の社会政策への回帰は,外在的な理由もあるが,農村社会学の方法論の延長と考えられる側面もある。福武の仕事は,社会学者が社会政策の分野で活動する道を開いた。
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