2012 年 4 巻 1 号 p. 85-96
本稿は,日本のミニマム・インカム・スタンダード(Minimum Income Standard: MIS)の特徴を,英国との比較を通じて明らかにする。まず,稼働年齢の単身者のMIS最低生活費を日英比較し,次に,社会扶助基準と最低賃金のそれぞれとMISとの距離を算定し,その距離が日英でどう異なるか検討する。主な知見は次の通りである。(1)日英の一般市民が合意する最低生活の水準に大きな隔たりはない。(2)2010年の日英において,稼働年齢の単身者のMIS最低生活費は非常に近い。(3)日本でも英国と同様,社会扶助基準と最低賃金は一般市民の合意する最低生活費を保障する水準に届いていない。しかし,低賃金労働者の生活保障をめぐり,日本は英国よりも大きな課題に直面している可能性もある。日英両国で誰ひとりの収入も下回ってはならない水準が似ていることから,MISを根拠に展開した英国の取り組みは日本にも含意を導く。